いま振り返りたい、癒されたい物語

原発事故とその後は、あまりに人間の心と命を軽視した経済ゲームばかりで疲れました。
傷つけられる人、子供、動物、自然より、経済が大切なんて、私には暴言にしか聞こえません。
そんな時、思い出しただけで、癒される物語、懐かしい物語、今こそ、もう一度観たくなっている物語があります。
それは、「大草原の小さな家」です。
人の幸せが、お金や便利さで買えるものではなく、美しい自然と家族愛にあることをしみじみと感じさせくれる名作ドラマでした。
もう一度、ゆっくり鑑賞したいです。
下記の文章は、童話城のエッセイより転載、書き加えたものです。


また会う日まで
                       越水利江子


NHKでたぶん20年間は放映していた「大草原の小さな家」は、古き良きアメリカ開拓時代の家族の物語です。
番組の中で幼かった少女が、ドラマの中で一人前の女性になり、母になるという点では、日本の「北の国から」と同じ超ロングランの連続ドラマといえます。
家族三代を描いたその物語の中で、私は後には祖父になってしまうお父さんチャールズが大好きでした。
マイケル・ランドン演じるチャールズは(彼は監督でもあった)、穏やかで、誠実で、理性的で、働き者で、家族を愛する敬虔なクリスチャンの夫であり、父親でした。それは、もはや現代では描けないキャラクターであるかも知れません。
いわば、アメリカ人情小説。
一連のドラマは、原作の長編よりずっと面白く感じました。ドラマを見て何度も涙しました。
ハンサムで優しいチャールズに理想の夫像、理想の父親像を重ね合わせたのは、若き日の私だけでないと思います。

最初の頃、チャールズは真っ黒なくせっ毛の若々しい父親でした。
それがいつの間にか白い髪になりました。成長した娘にこどもができ、おじいちゃんと呼ばれるようになっていました。
それでも、チャールズは豊かで若々しく魅力的でした。
それなのに、チャールズを演じたマイケルランドンは、1991年にガンで亡くなっていたのです。
つい先日、私はそれを知りました。
ショックです。
親しい友人や家族を失ったような気がします。
私のこれまでの半生は、それほど不幸ではありません。
けれども、一般の人よりは厳しいものだったように思います。
そんな中で、チャールズは、いつも一つの灯火でした。
まだ若く未熟だった私に、人間は捨てたものではないと、励ましてくれる温かい友人でした。
人生は辛く苦しい。
けれども、生きる価値があるのだと、チャールズは毎週語りかけてくれました。あの笑顔で、あの優しさで、あの黒い澄んだ目で。

NHKでは、あの番組を何度となく再放送をしています。DVDも販売されているのではなかったかと。
機会があれば、若き日のチャールズを、ぜひ見てください。そして、年取ってゆくチャールズを静かに見つめてください。
人生の哀しみと喜びが、そこに見えてくるはです。

チャールズ。
あなたのような男性に出会うのが、若き日の私の夢でした。
理想の父、理想の恋人、理想の夫でした。
残念ながら、この人生では、もう会えないかもしれないけれど。
いえ、あなたの笑顔は、目に心に焼き付いています。
物語の力を教えてくれたあなたに、心からの感謝と敬意を送ります。
また、会う日まで……