『季節風書下ろし短編集 ふしぎ日和』著/井嶋敦子/工藤純子/田沢五月/森川成美/村田和文/吉田純子

あさのあつこ選、心温まる「ふしぎ」、笑える「ふしぎ」、スッキリできる「ふしぎ」など、「ふしぎ」テーマの書き下ろし短編集。あさのあつこが主宰する文芸同人『季節風』のメンバーによる、「ふしぎ」をテーマとした短編集。心あたたまる「ふしぎ」、笑える「ふしぎ」、スッキリする「ふしぎ」……心が軽くなるアンソロジー登場! ! 奈々の勤めるホームセンターに毎日、黄色いヘルメットを買いにくる謎のイケメン男の正体と、奈々のふしぎな恋心を描く『正義の味方 ヘルメットマン』(吉田純子・著)ほか、『うたう湯釜』(森川成美・著)、『働き女子! 』(工藤純子・著)、『裏木戸の向こうから』(村田和文・著)、『山小屋』(田沢五月・著)、『生まれたての笑顔』(井嶋敦子・著)の、珠玉の短編6作品を収録。選者は作家のあさのあつこ、同人誌『季節風』などの書評を担当する土山優、数々の児童小説を手がける作家、八束澄子の3名。(BOOKデータより)
面白かったです。それぞれ、この作家でなければ書けない、生まれない短編集といっていいでしょう。
児童書作家としては、ナンセンスコメデイがお得意の吉田純子さんは、妙齢の女子の愉快でちょっと切ないラブロマンスなのですが、ここにも、かろやかにナンセンスコメデイの味付けがなされており、巻頭作品にふさわしい爽やかさでした。
児童書でも、歴史ファンタジーを書かれる森川成美さんは、ここでも、歴史ファンタジーでした。「うたう湯釜」とは面白いところに目を付けたなあと思いました。時代をさかのぼればさかのぼるほど、不思議やファンタジーは人々の身近にあって、それが、日本という国の文化ではないでしょうか。
藤純子さんも児童書作家ですが、いやいや、働く女子の倦怠と目覚めを描いて、なるほどと思わせられました。働くことの喜びは、どこにあるのか……それは、仕事のどこに生きがいを感じて、どう働くかにかかっているのかもしれません。
村田和文さんの作品は、山本周五郎を思わせるようなタイトルでしたが、殺伐とした現代を描きつつ、人と人の人情を感じさせてくれる物語でした。
井嶋敦子さんは小児科のお医者さんでもあって、井嶋さんにしか書けない視点で、命そのものが持つ不思議、ただ、そこにあるだけの生まれたばかりの命の愛しさを、母の立場、医者の立場両面から描いた温かい作品でした。
巻末の田沢五月さんの「山小屋」は、山を知っている人にしか書けない山の厳しさと美しさが心に残りました。山では、そういう不思議があっても不思議ではない、いや、むしろ、あるだろうと思わせるあたり、いい味でした。
児童文学を書くために集まった作家や書き手が、これだけの成人向きの作品を書けるということは、やはり、児童文学を修行することで、想像以上に書く力を蓄えていたのではないでしょうか。最後の課題は、短編集を越えて、いかに一冊の成人小説を書き遂げるか、さらにそれをシリーズにできるか……というプロ中のプロのハードルです。
このハードルは越えても越えても、次々ハードルが続きます。一口に言えば、死ぬまでハードル越えの修行です。
みなさん、体力を蓄え、ますますご健筆を!