『きずなを結ぶ震災学習列車』著/堀米薫

岩手県の海ぞいを走る三陸鉄道では、東日本大震災後、「震災学習列車」を運行しています。この列車に乗ると、地震津波で受けた被害のあとや、復興していく被災地のようすを見ることができます。そして、被災した人たちの思いや願いを、生の声で聞くことができるのです。そこでは、どんなことが語られているのでしょうか―。(BOOKデータより)
佼成出版社のノンフィクションシリーズの一冊です。
宮城県南部にお住いの作家、堀米薫さんから届いた心に響く真実の物語。
あの震災時、陸の孤島を呼ばれた地域に暮らす人々がどれほどの苦難に見舞われたのか、また、その地域を支えようとする三陸鉄道の苦闘の歴史もさることながら、さらに震災を乗り越え、明日へと挑戦する三陸鉄道の人々の故郷への愛が胸に迫ります。
巻末に書かれた作者のメッセージには、宮城に住まわれていてあの震災を直に体験した人だからこそ、これを記録なさったんだなと思える素晴らしい言葉がありました。
「人が住んでいない場所に、鉄道を通しても無駄だと思いますか? そうじゃない。私たち三陸鉄道は、人がいなくなったからこそ通すんですよ。だって、鉄道が通っていなかったら、みんながもどってきたくても、もどってこられないじゃないですか」
三陸鉄道の二橋さんの言葉です。
人が住んでいない所には鉄道はいらないと考える、大都会の大多数の人間にとっては目からうろこの言葉ではないでしょうか。
人は、企業はどうあるべきか、国とは、自治体とは、公共機関とはどうあるべきか、人の命と暮らし、そしてその心を大切に考えなければ、故郷も国も荒廃をまぬがれられないことを、三陸の人々は知っていました。
私たち自身もまた、悲しいけれど、人より命より、企業の収入、お金だと考える企業や人々があることを、あの震災と津波の後に知ってしまいました。いや、この国の政治さえそういう人々が牛耳っている現実があることをどう受け止めればいいのでしょうか?
そう考えた時、原点は、この三陸鉄道を支える人々の真心にあると感じます。
震災で事故を起こした原発や、全国の原発は、比較的人口の少ない地域に建築され続けながら、その地域の人々のためにあるのではなかったことは明らかです。むしろ、事故があった時、被害者が少なくてすむ地域におこうという考えだったのでしょう。
原発は大都会のためにあるといわれてきましたが、それも疑問です。実の所、企業や国の一部の人々が潤うためにあったのではないでしょうか?
三陸鉄道にかかわる人々の真心に比して、この国の企業のあり方を問わずにはいられませんでした。