『うばかわ姫』のウラ設定

『うばかわ姫』の主人公、野朱(のあけ)姫は、本文には書いてはいないけれど、かの大河ドラマの主役だった織田信長の姪である浅井三姉妹の末妹、「江」の生んだ姫である。
江の最初の夫である大野佐治家の佐治一成との間に生まれたが、豊臣秀吉の政略の道具とされた江は、わずかの期間で一成と引き離された。
歴史上、江と一成は結婚した(この時、江は12歳、一成は16歳)とも、婚約のみであったかもしれぬともいわれているが、その婚約説こそ、江を政略の道具とするために秀吉が事実を歪めたかもしれず、江が三度目に嫁いだ徳川家、秀吉双方にとって都合のいい創作ではなかったのか…と思ってしまう。
大野佐治家の伝聞伝説には、江と一成の間には姉妹が生まれ、一人は目が不自由であったともいわれている(この頃の近親結婚を考えると、血の濃さゆえに、障害のある子が生まれたというのも、かえってリアル感がある。なぜかというと、江は、信長の妹、お市の方の娘で信長の姪。一成もまた信長の妹、お犬の息子で信長の甥にあたる)。
何が本当かはともかく、調べられるだけ調べ尽くしたら、そこに空想の翼を拡げるのが、小説というものの醍醐味だ。
織田信長という稀代の王と幻の安土城、江と伊勢の水軍である大野佐治家、京の商人のもとに隠された高貴の姫が繋がった瞬間だった。
裏を固め、さあ、ここから楽しく執筆開始。
作家の喜びとは、ここらあたりから始まるのかもしれない。

うばかわ姫 (招き猫文庫)

うばかわ姫 (招き猫文庫)