『ゆらやみ』著/あさのあつこ(新潮社)

ゆらやみ

ゆらやみ

石見銀山で育ったお登枝は身寄りもなくまもなく女郎になる。客をとる前夜、お登枝は堪えきれず密かに想いを寄せていた銀掘の伊夫の許へと逃げるが男に後をつけられて―。幕末の石見銀山で出逢った山の神に愛された若き女郎と銀を掘る少年。罪に手を染めても、愛し抜こうとした二人の灼熱恋愛長編。(BOOKデータより)
江戸時代末期、幕末の石見銀山を描く時代小説。それだけでも、読みたい気持ちがそそられるのだけれども、「人生で唯一の男で、唯一の女。守り守られ、ただ、一緒に生きたかった…」という帯の言葉を見て、手を伸ばさないでいられる女性はそうはいないんじゃないだろうか?
私はこれまでも、あさのさんが書く闇の表現が好きなのだけれど(現代にはない漆黒の闇がそこここにあった江戸時代を描くのに、漆黒の闇そのものを表現できない作家はまず時代小説作家にはなれない)、この度の物語は、まさに、鼻をつままれてもわからない漆黒に塗り潰された石見銀山の坑道、間歩(まぶ)が物語の中心に据えられている。
男のみが入れる坑道、間歩で産み落とされた天女のように美しい女お登枝は、その間歩で働く少年と出会い、恋に落ちる。お登枝は女郎となっても、その初恋の純情を魂に刻み付け守り続ける。ただ、魂で……。
その切なさは胸に迫るが、女郎となったお登枝の心は澄んでいて、恨みつらみの怨念に汚されることはない。女郎としてあるがままを受け入れつつも、お登枝の魂は売り物ではない。客の中には、深く愛してくれる男もいるが、お登枝の魂は、愛されることより、愛すること、抱かれるより抱くことを選ぶのだ。
しかも、主人公二人だけでなく、脇役が魅力的である。これは描こうとする人間への作者の愛だと思う。女郎宿の女将さえ、人間としての深みが描かれている。
どれも、女性にしか書けない女だと思った。
男性作家の書く女は、男の愛にほだされる。悪女と、いい女、お人よしの女などが登場して運命に翻弄される。
だが、あさのさんの書く女は運命に翻弄されない。確固としたおのれの愛のみを守って生き抜く。
物語の結末はここには書けないが、私は泣いた。
心の中で「よかったねえ、お登枝さん……」と声をかけていた。

               written by 越水利江子



今年の12月12日に、そのあさのさんと鼎談します。その時、この本の話もしたいと思っているところです。
鼎談の詳しい情報はここを↓クリック!
http://d.hatena.ne.jp/rieko-k/20150807/P1












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