『まんぷく寺でまってます』著/高田由紀子 絵/木村いこ

まんぷく寺でまってます (ポプラ物語館)

まんぷく寺でまってます (ポプラ物語館)

二学期のはじめ、ぼうず頭をからかわれて、やっぱり思った。「お寺の子なんて、いやだ!」―だけど、席がえで野々下美雪ととなりになってから、ぼくの気もちは、なぜか、ちょっとずつ、かわりはじめたんだ…。佐渡のお寺が舞台の心あたたまる物語!! (BOOKデータより)
佐渡金山のそばのお寺で育った作者、高田由紀子さんの少女時代を彷彿とする物語だった。
人の死、親しい家族の死をどう受け止めるのか、いや、本当に受け入れられるのか…といえば、大人だって難しい。
その生と死の狭間でもある万福寺を継ぐことなっている主人公、裕輔には、漫画家になるという夢がある。なのに、意味不明の漢字ばかりのお経を覚えなくてはいけないし、丸坊主にされたし、お墓の掃除や管理もしなければいけない。
今の住職のお父さんは怖いけど、おじいちゃんは優しかった。なのに、そのおじいちゃんが倒れて入院して……その時、初めて、クラスメイトの性格が暗い女の子、美雪の気持ちがわかる佑輔。
一年前にお父さんを亡くした美雪は、あれからずっと暗いのだった。
その美雪を、どうしたら励ますことができるのだろうか……そんな子供らしい気持にこそ、人の生の深遠がほの見える。
子供は、何でもわかっているような大人よりずっと素直に、真理に寄り添う。
児童文学を好む大人読者が多いのも、その素直さ、素直だからこそ、鮮やかに輝く一瞬を見せてくれる児童文学が、真の意味で、人の心を癒してくれる物語だからなのかもしれない。そんなことを感じさせてもらった一冊。