『翼もつ者』著/みおちづる

翼もつ者 (文学のピースウォーク)

翼もつ者 (文学のピースウォーク)

大戦争」後、人類は三百年の時を耐え地下シェルターから開放の時を迎える。大陸の東にはオルテシア共和国、西には中小シェルターの共同体であるカザール自治連邦が。地下資源「ソリド・マグマ」の発見により、所有権をめぐって両国は……。オルテシアの少年・ノニの願いは一つ。自らの翼で大空を飛び回ることだった――。
日本児童文学者協会70周年記念出版の「文学のピースウォーク」の一冊。ハイファンタジーの旗手、みおちづるさんの新刊なので早く読みたかったのに、仕事に追われ、ぎりぎり年内のご紹介になりました。
この物語はハイファンタジーですが、今の日本や世界の有様を彷彿としてしまいます。
たった一人、飛べるとはいえ、微力な少年に何ができるのか……世の権力、悪徳にどう立ち向かえばいいのかを、ハイファンタジーという物語の力を借りて、少年少女たちに伝えられる言葉は、哲学的であり、一方で、とても真摯で、現実的です。
この物語で、翼人らが敵地を攻撃しようとするソリド・マグマの爆弾は、核爆弾を連想してしまいます。文明を作ったと権力者が言うそのパワーは、むしろ、原子力なのかもしれません。
そして、命をかけて、爆撃を阻止しようとする少年、ノニの姿は、かつて私が書いた『忍剣花百姫伝』の美女郎の姿にも重なるような気がしました……そうなのです。どう書けば、少年少女の無垢な心に届くのか、書き手は様々な物語を構築し続けているのです。(↓にそれらをご紹介致します)。それこそが、文学の仕事だと、この物語は教えてくれます。大人にも子供にも、文学は、物語は、大きな力になってくれるはずです。
この物語は、考える力をこそ、与えてくれる物語なのです。押し付けるのではなく、あなた自身の心と頭で考えてみて……と。
私が思ったのは、「新しい戦争」とも呼ばれる原発の事故もまた、戦争と同じだということでした。世界に恐怖を与えた大人災に遭った日本という国が、今は、経済だの、便利だのといって危険な原発再稼働を押し進めていますが、この問題も又、この物語のテーマ、「命を尊ぶ」とは、どういうことかを考えれば答えは出ます。つまらぬ推進論議が、いかに人の暮らしから隔離した暴論なのかがわかるはずです。皆さんも、この物語を読んで、自分の心と頭で考えてみて下さい。戦争とは何か?人の暮らしの幸せとは何か?……と。
少年たちの戦場 (文学のピースウォーク)

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大久野島からのバトン (文学のピースウォーク)

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幽霊少年シャン (文学のピースウォーク)

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すべては平和のために (文学のピースウォーク)

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