「飛騨の怪談」岡本綺堂著、東雅夫編

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岡本綺堂の怪奇ラブロマンスの復刻。これから、幽ブックスからどんどん出版される幽クラシックスシリーズの一冊です。
表紙の妖し美しにまず一票。
このシリーズはすでに四冊出ていますが、総じて表紙が妖しく怖く、でも惹き付けられるのです。
私は近年から編纂の東雅夫さんファンで、さらに古くからの岡本綺堂ファン。となれば、まずこの一冊から読み始めました。
この時代の小説は、まずは漢字や表現が難しくてさらさら読めないものなのですが、さすが、東さんの本です。ポイントポイントにルビが入っているので、さらさら読めます。しかも、現代の日本人が忘れ去った魂を揺り動かすような日本語表現の数々。それだけでも「買い」なのですが、物語の陰影にかつての奥深い日本が立ち現れるところが、なかなか現代の本では体験できないことなのです。
そういう意味では、泉鏡花の世界につながるような気がします。
岡本綺堂は明治の人。古き良き江戸の姿を、想像だけでなく、体感と共に描ける最後の世代といってもいいのかもしれません。私は粋でいなせな綺堂時代劇、綺堂エッセイのファンでもあります。
物語はもう、とやこういうより、読んでもらうしかありません。
幽艶なラブロマンスに、冒険活劇のスリルとサスペンス、さらに哀しい人の運命と差別のありようも描かれて胸に迫ります。
物語の終わりに登場人物が謎解きしてみせる内容については、現代なら問題となる部分を含んでいます。(日本の歴史上で権力闘争の敗者となっていった人々。土蜘蛛一族やアイヌの人たちなどに関する叙述)
ですが、作者は故人。しかも江戸の残り香の中に生きた明治の始めに生まれた作家です。差別と畏れが、日本のユニークな妖怪たちを生み出した土壌を考えれば、このことにこだわって、この時代のロマンを封じるのはやめましょう。それより、この作品が復刻されたことによって得る物の大きさを語りたいです。