『ぼんくら』上下・著/宮部みゆき


ぼんくら(上) (講談社文庫)ぼんくら(下) (講談社文庫)
「殺し屋が来て、兄さんを殺してしまったんです」――江戸・深川の鉄瓶長屋で八百屋の太助が殺された。その後、評判の良かった差配人が姿を消し、三つの家族も次々と失踪してしまった。いったい、この長屋には何が起きているのか。ぼんくらな同心・平四郎が動き始めた。著者渾身の長編時代ミステリー(BOOKデータより)

以前、上巻だけを読んでいた『ぼんくら』を、改めて買い直して上下読みました。
宮部みゆきさんファンの私は、これまで読んだ宮部作品はほとんど強く心に残っています。でも、仕事ではなく趣味で読んでいるので、このブログでご紹介したのは、深く感動してしまい、これは趣味だけど、ご紹介しようと思い立った『弧宿の人』ぐらいだったと思います。
あくまでも、趣味で読んだ本は「ああ、面白かった!」といって本を閉じたいのです。それが、読書の醍醐味ですから。

それなのに、なぜ、この本をご紹介しようと思ったかというと、あの天才作家の宮部みゆきさんですら、筆が乗ってくると、一気に作品が面白くなるんだと、しみじみ感じたからです。
私自身、筆が乗ってくると、断然読者が喜んでくれるようになるという物書きなのですが、それは未熟な私だけかしら…と思ってもいたのです。でも、そうじゃなかった、天才宮部さんもそういうところがあるんだ〜と、嬉しかったからです。
以前、上巻だけ読んで下巻を読んでいなかったのは、仕事が忙しかったせいもあるけれど、一気に読んでしまう勢いにかられなかったからでした。面白くは読んだのに、それがなぜなのか、今回上下巻読んでみてわかりました。
『ぼんくら』に登場する主人公、ぼんくら同心、平四郎のぼんくらぶりの味が際立ってくるのは、上巻後半に登場するキャラ、お人形のように美しい甥っ子、弓之助と、まるで人間コンピューターのような少年おでことのからみや、頼りになってかっこいい岡っ引き政五郎などとのからみが始まってからです。
とことん渋い、謎の湊屋総右衛門などが登場すれば、その対比で、かえって平四郎のぼんくらぶりこそ愛しくてなりません。
物語は、登場人物のキャラが際立ってこそ完成すると、いたく感じ入った小説でした。