『ガラスの壁のむこうがわ』著/せいのあつこ 絵/北澤平祐

ガラスの壁のむこうがわ

ガラスの壁のむこうがわ

せいの/あつこ
大阪府出身。立命館大学文学部卒・同大学院前期課程修了。第十二回長編児童文学新人賞佳作。「季節風」会員。「うつのみや童話の会」会員。『ガラスの壁のむこうがわ』がデビュー作(BOOKデータより)
「早く友だちができるといいね」と、言われ続ける主人公、由香の描き方が、せいのさんらしく、痛く迫ってくる。
何気なく、周囲の人が言った言葉が、由香には、ぱしん、とぶつかってくるのだ。
それは、まるで、見えないガラスの豆みたいに、由香の心だけ、ぱしん、と打って、ころがって消えるのだ。お母さんが言った言葉も、クラスメイトの言葉も、ぱしん、ぱしんと、由香を打ち続ける。その切なさ、どうしようもなさが読者にも迫ってきて、胸が痛い。
けれど、この物語が、悪者といい人、いじめる人といじめられる人を色分けしただけの物語ではないことは、最後まで読めばわかる。誰の心にもある我儘な心、意地悪な気持ち、それに気付いた主人公のシーンに、私はつい泣きそうになった。
そして、ただ、人が羨ましくて仕方がなかった由香が気づいたのは、自分が自分であるままに楽しく生きる方法だった。いや、それに気づかせてくれたのは、これまで求めてきたような一方通行の友だちではなく、互いに認め合い磨き合っていける友だちだったのだ……それって、何? どうしたら、そうなるの? って思う方は、ぜひ読んで下さい。
個性的な子が生きにくい日本の学校にも、個々の先生や、子どもたちの愛は溢れているのだと、心温まるお話です。