『さっさら春風「もしも」はすてて』浅田宗一郎

さっさら春風―「もしも」はすてて (文研じゅべにーる)
丈夫(じょうぶ)は、生まれつき左手に傷害をもっています。
そのことを恥ずかしく思っていた丈夫に、おねえちゃんの恵(めぐみ)はいいます。
「おねえちゃんが丈夫の左手になる。そやから、安心して、ポケットから手ぇだし。」と。そのおねえちゃんもまた、てんかんという重い病気を抱えているのです。
それなのに、この物語は底抜けに明るいのです。
つらいことも悲しいことも次々起こります。いやっというほど。それでも、物語は暗く重くはなりません。切ないのに、悲しいのに、読み終わったあとに残るのは姉弟の明るい笑顔の印象だけなのです。
「あたしもあんたも、いまのままで十分や。このままでええんよ。」
微笑んでそういった恵の言葉が、どれほどの大きな意味をもっていることでしょうか。「もしもはすてて」という副題に、お寺の若き住職である作者の願いがこめられています。