おめでとう〜新刊祭り!!

というわけで、長らくご紹介できなかったお友達や尊敬する先輩方の新刊をご紹介します。えっと、午前中に数冊のご紹介文を、午後や夜には、ご紹介文のない数冊に、少しずつ紹介文を書き加える予定ですので、お手すきの時に二度三度とのぞいてみて下さいまし。
えっと、それで、お詫びしなければなりません。いろいろ試行錯誤を繰り返したのですが、今回また今後は、ここを覗いて下さっているだろう作家さんのご著書の中から、心に残ったご本やシリーズを、できる範囲でご紹介させて頂こうと思います。
というのは、未知の作家さんを含めた全部はどう考えてもご紹介しきれないこともあり、どなたも気にしておられないとは思いますが、新人さんなどの場合、そのことで不公平が生じると私の胸が痛むからです。
ことに、評論家ではない作家同士の紹介ということもあって、心の通じる関係でないと、いろいろとしんどいことが生じることもあって、そんなわけで、どうもすみません。ご理解下さいますよう、お願い申し上げます。
大ドロボウ石川五十五えもん (ポプラ物語館) 『大ドロボウ 石川五十五えもん』吉田純子
わが季節風同人の吉田純子さんのデビュー作シリーズ。いちどもドロボウに成功したことのない大ドロボウ3兄弟、石川五十五えもん、五十六えもん、五十七えもんは、なんとまあ、ドロボウをつかまえる大名人のお屋敷にしのびこんだから、もう大変! 
ナンセンスの面白さがてんこ盛り。ちゅうか、もう、ドカドカ爆発してます。誤爆自爆もなんのその、笑いの空爆猛爆でしかめ面もついには笑わせられること請け合いです。私のお気に入りはヘビ軍団。キングコブラの高橋次郎。ガラガラヘビの木村文子。ハブの鈴木和夫。極め付きは、マムシの早乙女アリサちゃん〜♪ あほらしくって、かわいくって、ぜんぜん、お勉強にはならない本。そこが大好き。細川貂々さんの絵がぴったりです。
やぶ坂に吹く風 (文学の散歩道) 『やぶ坂に吹く風』高橋秀雄
やはり、季節風同人の高橋秀雄さんの新作。『父ちゃん』の続編です。ずっしり手ごたえが残る男の児童文学。いつも囲炉裏には火があった。まずしい、けれど、心あたたかい。人と人はこう生きていける。手をつないで、ささえ、ささえられ……。
舞台は昭和三十年代。義理の父悟一を大好きな少年良夫の物語。貧乏だけれど、愛情あふれる人と人の風景が目前にひろがり、読者を癒してくれます。現代人が失った、本当は一番大切なものが、この物語の中にはあります。手の中で温めて抱きしめて、忘れないでいたいあの頃の優しさが、読者の心にもよみがえることでしょう。
怪談図書館〈6〉死者の時間へようこそ (怪談図書館 6)『怪談図書館6 死者の時間にようこそ』
「きれいになりたい」河俣規世佳作。きれいになりたいという女の子がもらった試供品のクリームは効果抜群。でも、試供品をくれたお姉さんはいった。「くれぐれも使いすぎないように」と。初恋のヒロ君に見せたくて、たっぷり顔にクリームをぬった女の子は……!? うう、化粧品って怖いよね。「ぼくの後ろにだれかいる」黒田志保子作。ゲーム大好きな輝男は、ゲーム中、だれかが後ろにいるような気がした。それは、ご飯のときもずっと続いて……。少しずつ怖さが迫ってきます。架空の物語でありながら、実際はゲームに心を乗っ取られた人たちが事件を起こすことも多々ある世の中。うう、ゲームって、ほんと、怖いよね。「黄泉の旅路から伝言」金治直美作。これは、怖くて優しい物語でした。怖い話とほっとするお話がバランスよくまとまった一冊でした。
心にひびくお話 高学年―10分で読める『10分で読める心にひびくお話』高学年
児童文学者協会編。いろいろな公募で入賞された作家さんたちの受賞作品集。さすがに秀作がそろってます。中でも、私が大好きだったのは、「かげろう水の朝」井嶋敦子作でした。地球に近づいた彗星の引力で、空気全体に水の分子が浮かび上がってしまったかげろう水現象。その発想もワクワクしますが、その空気感、感触がつたわってくるのがなんとも心地いいのです。グリム童話大賞受賞作。「母ちゃんのお母ちゃん」沢田俊子作。これは関西人独特のユーモア溢れる作品でした。母ちゃんへの誕生プレゼントは、母ちゃんの母ちゃんになること! とまあ、とんでもないはめにおちいった息子のたくや。老人会でも、みんなのお母ちゃんになってしまい、えらいことです。つきほし創作館童話の部入選作。「ある夜、ある町で」岡村佳奈作。ある雨の夜、行く当てのない少年は占い師の老人に声をかけられる。「あんなどしゃぶりのなかを歩いたら、おまえ、こわれちまうぞ」と。そう、少年は研究所から逃げ出したアンドロイドだったのです。アンドロイドをただのスクラップのように壊し捨ててしまう恐ろしい人間たちから、少年は逃げてきたのです。アンドロイドの強さも持たない少年には、実はたったひとつ素晴らしい能力がありました。でも、それは……。作者の優しさがにじみ出てくるような結末に、人とは何かを考えさせられました。毎日新聞社小さな童話賞角野栄子賞受賞作。
Twinkle―ひかりもの (teens’ best selections) 『Twinkle ひかりもの』
めっちゃ光ってる、ウチら。ふしぎに連鎖する新感覚アンソロジー
いやはや、参りました〜なんでしょうね、このメンバー。香月日輪、後藤みわこ、ひこ・田中寮美千子令丈ヒロ子ときたもんだ。もう、このメンバーだけで、ごっつ光ってるやん! 内容は推して知るべし、といいたいです。「バラの街の転校生」後藤みわこ作、この物語を説明せよといわれても無理です>断言。パワーといい、呼吸といい、これは関西作家の作品としか見えないのだけれど、実は作者は愛知県在住。関西人ではないのです。恐るべし……。「めっちゃ、ピカピカの、人たち。」令丈ヒロ子作は、女子漫才コンビの涙と笑いのピッカピカ・ストーリーです。小松菜的存在の主人公、水口の絞殺、いや違う、考察がなんとも味わい深く、胸に遺体、いや、痛いのです。そやけど、なんで、こう事件みたいな変換ばかりすんの? マイ・パソコン……。ミステリー作家じゃないのに。というわけで、香月ねえさんの「光る海」、寮ねえさんの「蛍万華鏡」、ひこにいさまの「roleplay days」も、それはそれは光ってます。
小さな空 『小さな空』風野潮
「今、自分が住んでいるこの町で、ふつうの日常生活を送っている家族の話を書きたかった」そう、家族小説です、これは。華やかな舞台があるわけでもなく、とんでもない事件が起こるわけでもなく、普通の街の普通の家族の四季を追った物語。と、思っていたら、主人公一家の同じ団地に、なんと、死んだ妻ののこした義理の娘、風希子を育てる、弱冠二十五歳の美声年パパ正見が登場しました。しかも、この正見君はミュージシャンなのです。さあ、潮劇場になってきましたよ。と、読む意欲をかき立てられました。されど、潮劇場は決して爽やかさからぶれることはないのです。惹かれ合い、いたわり合いながら、音楽に結ばれてゆく二つの家族が、どこまでも爽やかに描かれます。「二人のリズムが合ったとたん、勢い良く転がるドラムのビートと疾走感あふれるベースラインが、小さな部屋の空気に音の渦を作り出す。」本を開けば、いつの間にかリズムが響いてくる潮劇場。一粒で、二度美味しい小説なのです。
虹の国 バビロン 摩訶不思議ネコ ムスビ(3) (講談社青い鳥文庫) 『摩訶不思議ネコ・ムスビ3虹の国バビロン』池田美代子
遠い昔、世界は、太陽の神と月の神によって護られていました。ふつうの小学生だったいつみは、天猫(ラキネコ)のムスビと出会って、太陽遣いの巫女として目覚めました。太陽遣いと敵対する冥府遣いの猫たちと戦う、いつみ、玉ちゃん、莉々の3人と天猫ムスビの活躍3話目です。「虹色雲を見た人は、天国への切符を手にする」という都市伝説そのままに、虹色の入道雲の中にあらわれた、螺旋状にねじれた巨塔。それは、天国にまで突き抜けているかのよう。そこは、虹の国バビロンの入り口だったのです。虹の雲を見てしまったため記憶を失った友だちをすくうため、いつみ、玉ちゃん、莉々とムスビ、3人と1匹……いえ、今回は3人と2匹が、虹の国バビロンへ。けれども、バビロンは、もうすぐ海の底へ沈む運命だというのです。もしや、ここにも冥府遣いがいるのでしょうか? と、このシリーズは、毎回、壮大な神話と伝説の世界、友情と冒険の旅へ案内してくれます。低学年の子どもが楽しめる読みやすい文章と、はらはらドキドキする展開の数々。可愛くてユーモラスで熱い心の主人公、そして仲間たち。これこそが、子どもたちを夢中にさせる池田美代子ワールドなのです。
恋かもしれない 四年一組ミラクル教室 (講談社青い鳥文庫)『四年一組ミラクル教室 恋かもしれない』服部千春
四年一組はミラクル教室なのです。なぜって、だれかがくしゃみをすると不思議なことが起こるのです。クラス全員が順番に主人公になる連作短編集。クラスで一番小さな津山愛は、大きくなりたい女の子。先生たちは「たくさん食べて、たくさん運動していれば、そのうち大きくなる」っていうけれど、愛はそのうちじゃなく、今大きくなりたいのです。そんな愛が、保健室で大きなくしゃみ。その時、見つけた茶色い小瓶。そこには「成長促進液」と書かれてありりました。な〜んだ、それを飲んで大きくなるのねって思ったら、違うのです。そこは読んでのお楽しみ〜。今回も、「成長促進液」や「正直ペン」など不思議グッズが登場。淡い初恋や、先生の恋を温かく後押しします。このシリーズも子ども人気に支えられて7巻目です。
若おかみは小学生!PART12 花の湯温泉ストーリー (講談社青い鳥文庫) 『若おかみは小学生12 花の湯温泉ストーリー』令丈ヒロ子
160万部突破の超人気シリーズ最新刊です。今日はクリスマスイブ。今日こそ、ウリケンとロマンチックなデートをしようと約束したおっこは、めいっぱいのおしゃれをしました。そして、首には、愛を育てるというラブ・ストーン、紅水晶のペンダント。最高にロマンチックな気分で出かけたところは、カップルがあふれる遊園地。ところが、素敵な観覧車に乗るはずが、バンジージャンプをするはめに……。さんざんな遊園地からウリケンの家へ行くと、今度は、ウリケンの幼なじみのひなのから、「健悟(ウリケン)は、あんたにわたさない!」と宣言され、とまどってしまうおっこ。気がつけば、愛を育てるはずのラブ・ストーンが灰色に……!
「いくら、あなたのことを好きな人が近くにいても、あなたにそれを受けとめる心がなければ、愛ははぐくめないでしょ」という、占い師グローリーさんの言葉が深いです。愛ってそうなんだよねぇ。女の子のドキドキ感が素敵なクリスマス・ストーリー。令丈ねえさんの書く女の子って、ほんとに可愛いのです。
江戸東京怪談文学散歩 (角川選書) 『江戸東京怪談文学散歩』東雅夫
「土地の記憶を一番きちんと伝えていけるのは、怪異譚だろうと思うんですよ。」<宮部みゆき>
江戸や東京の怪談や怪奇文学の舞台をめぐる、東雅夫さんの文学散歩。写真、地図あり。しかも、案内してくれるのは怪奇幻想文学の研究、編著、さらに現地踏査を無数にこなしている東雅夫さん。まことに贅沢きわまりない本です。読み出すと、土地土地の闇の底に葬られた地霊の息づかいが聞こえてきます。東さんの書かれたご本、編著されたご本は、どれも奥が深くて、私のイメージ喚起の「夜の花園」なんです。【芥川龍之介の『妖婆』と両国一つ目界隈】【森鴎外の『百物語』と向島百花園】【泉鏡花ほかの『怪談会』と向島有馬温泉】【宮部みゆき『あかんべえ』と深川高橋界隈】【永井荷風の『来訪者』と深川四谷怪談めぐり】【岡本綺堂の『青蛙堂鬼談』と妖しい坂めぐり】【三遊亭円朝の『怪談乳房檜』と怪しい橋めぐり】【泉鏡花の『恋女房』と幻の池めぐり】と、目次を並べるだけで、これは読むしかないでしょう。宮部みゆきさんとの対談おまけ付きです。
むかしむかし大昔の子ども達―『アウ』と『クサ』と『ヒエ』 『むかしむかし大昔の子ども達』辻野チヤ子
大昔の子どもを主人公に、優しく描かれた歴史物語を通して、「人々の思い、本来の人としての姿、祖先がどのように生きてきたか」が伝わってくる。<岡村道雄>
古代の物語を書くのは難しいです。多くのことがわかってはいないし、その空気感を体験できないからです。でも、この物語は、丁寧に歴史の証言を積み重ねつつ、生き生きした子どもの姿を通じて古代が描き出されています。古代の人々が何を思い、何を楽しみ、何を夢見て生きていたのか。景色は? 暮らしは? それらが物語を通じて伝わってきます。創作としても、歴史を描いた資料としても、貴重な本だと思いました。
山の風 薫実里詩集 (子ども詩のポケット) [ 薫実里 ]『山の風』薫実里詩集
「やまんば」
わたしはやまんば/ぼうぼうの髪をときつけ/紅などさして/毎日毎日/山を抜けだし働きに/わたしゃ/木の芽草の芽木の実にきのこ/それさえあれば充分なのに/娘はかわいいリボンがほしいやら/ケーキを食べてみたいやら/息子は/学校に行ってみたいやら/勝手なことを言うもんで金がいる/生活のために働きに/何が嫌かって/笑ったことないこの私が/人間ごときに笑わにゃならん/……後略/
ああ、母親はみな「やまんば」なんだとしみじみしてしまった詩。
山の声を聞く詩人、薫実里さんのみずみずしい詩集です。