復刻、作品中の食べ物

時代ファンタジーを書いていると、苦労するのが食べ物の描き方です。現在とはちがう素材、料理法、食卓、作法などなど、ただ、主人公が食事をするだけでも、書く方はあらゆる方向において調査しなければならず、場合によっては食べてみなければならず、かといって、昔のままの復刻食品が作品のなかで効果的に生きるかどうかは、また別問題で……。というわけで、結局、史実といわれる(これも確実でないことが多い)食品にこだわるか、あるいは、少々現代的にして、読者的満足感をねらうのか、二者択一になってきます。
今書いている『恋する新選組2』で、冒頭から登場するのはかの坂本龍馬です。
龍馬の好物といえば、そう、軍鶏(しゃも)鍋です。この軍鶏鍋をいかに物語内で復刻するか、美味しそうに描くかという挑戦を今しているところです。
龍馬の行きつけの軍鶏鍋の店といえば、江戸にも、京にもあるのですが、二つの店はまず味付けがちがいます。江戸風、京風のちがいです。江戸風はすき焼きのように割り出汁をつかって甘辛く作った鍋だったようですが、京風は薄味で、鰹だし塩みりんが三種の神器のようです。今回は京、四条小橋にあったという龍馬のお気に入りの店「鳥新」の軍鶏鍋なので、当然、後者の軍鶏鍋です。とはいえ、龍馬はもともと、軍鶏鍋の本場といってもいいような土佐の生まれです。だとすれば、鳥新の味にも、龍馬の希望で、土佐風が加味されていたかもしれないので、その方向で今書こうとしています。で、まあ、食べてみるかっと思ってます。
龍馬が愛した軍鶏鍋↓
http://www.umaitosa.com/fudo/index.html
もう一つ、『時空忍者 おとめ組2』には、信長時代のお菓子が登場します。信長といえば金平糖ですが、宣教師からプレゼントされたという金平糖は、ポルトガル語のコンフェイト(砂糖菓子の意味)からきていて、金平糖はつまり当て字なんですね。
この信長の金平糖というのが、京都土産として復刻されていますが、これはどう見ても、私たちには金平糖には見えません。白くてまるくてボーロのようなのです。
砂糖が貴重品だった時代なので、ガラス瓶に入った金平糖を信長は一粒一粒大事に食べたといわれておりますが、それはそれとして、では、物語に登場する金平糖は、この金平糖でいいのか? と、考えてしまいます。星形じゃない金平糖なんて、金平糖じゃないわいっと思う人が多いはず。やっぱり、丸形であっても、もう少し角が出ていないと納得できません。
京都の金平糖専門の老舗「緑寿庵清水」さんの店では、手作りの果物味の金平糖を作っておられますが、これが薫り高くて、ほんとに美味しい!(りんご味の金平糖なら、りんごの味や香りが口の中でひろがります。巨峰、メロン、桃、いちごなど季節代わりのメニューがあります。)
作り方は機械を使わず、職人さんが2週間かかって作られる昔のままの製法に、天然果汁を溶け込ませる新工夫を加えた最高の金平糖です。金平糖というのは、角が出るまでが何日もかかるのです。ということは、たとえ復刻でも、まるい金平糖は角が出るまで手をかけていないということですよね。
昔の文献を見ると、金平糖を、糖花とも呼んでいたようで、日本人の花のイメージなら、丸いだけより、やはり星形が似合っています。
いやいや、我らの信長さまが食した金平糖は、最高の金平糖であってほしいです。なので、物語に登場する金平糖は史実に従ってやや丸形ですが、でも、角もあって丸星形の金平糖とさせてもらいます。手をかけて作れば、角は出てくるのですから、物語の中では、手をかけた金平糖に登場してもらうことにしたわけです。
金平糖の老舗「緑寿庵清水」さん
http://www.kyokira.jp/modules/shikisai/report.php?id=64