命の強さと温かさが伝わる本

牛太郎、ぼくもやったるぜ! (いのちいきいきシリーズ)『牛太郎、ぼくもやったるぜ!』堀米薫
「ぼくの名前は、健太郎。そして、ぼくの弟分は、子牛の牛太郎! といっても、メスなんだけど……。母牛と小さいときにわかれたり、仲間からいじめられたり、牛の世界もけっこうたいへんだ。でも、牛太郎はがんばっている。ぼくもいじめっこなんかに負けていられないぜ!」(表紙カバーより)
昨年、日本児童文芸家協会第13回創作コンクール(中学年部門)で、優秀賞を受賞された堀米さんの作品が本になりました。
遅ればせながら、読ませて頂いて、私が一番に思ったことは「ほら、やっぱり、そうだったでしょ!」ということでした。なんのこと?って思われるでしょう。
少しだけお話しすると、昨年の日本児童文芸家協会第13回創作コンクール(中学年部門)は、私も最終選考委員の一人でした。最終選考に上がってきた作品は、たしか20作以上あったのではなかったでしょうか。ふつう、こういう最終選考というのは10作前後です。その倍以上もあったことで、最初の話し合いではかなり票が割れました。でも、私はもう選考委員会にでかける前から「牛太郎」を推そうと思っていたのです。その理由は、これほど、命の躍動を感じる物語はそうそうあるものではないと思ったからです。
上手に書ける人はたくさんいらっしゃいます。でも、命そのものと日々格闘していらっしゃる堀米さんが書かれたこの作品からは、ドクドクと脈打つ牛の鼓動や、声や、体温や肌触りまで伝わってきました。その部分では、群を抜いていました。
けれども、選考委員会の大方のご意見は「この物語の主人公である子牛、牛太郎は描けているけれども、もうひとりの主人公である少年、健太郎が描けていない」というご意見でした。ごもっともなご意見と思いましたが、その時、私はおよそ、こういうことをいいました。
「たしかにそうですが、それらのことは、本にする経過の中で加筆できることです。いま、子供たちにとって必要なのは、本物の命に触れるられる物語です。この物語は本にさえなれば、各地の課題図書になれるような素晴らしいものを持っています」と。
そうしたら、最初はこの物語を評価されていなかった委員さんも頷いて下さいました。そして、話し合いの結果、選考委員全員一致の結論として、この物語が優秀賞に決定したのです。
ですから、私は「ほら、やっぱり、そうだったでしょ!」と喜んでいるわけです。私が予想した通りに素晴らしく加筆された本がここにあるのですから。
創作コンクールといったものは世の中に多くありますが、コンクールの存在意義は、まだ完成品ではないかもしれないけれど、宝石を秘めている作品を見出すことだと、私は思っています。
宝石を秘めている作品は、道さえ開いてあげれば、驚くような力強い輝きを放って登場してくれるのです。この『牛太郎、ぼくもやったるぜ!』は、そういう本です。各県の課題図書、推薦図書におすすめ致します。