岩崎京子さんと別司芳子さんのご本

建具職人の千太郎 (くもんの児童文学) 建具職人の千太郎 (くもんの児童文学)岩崎京子著
江戸期の庶民の生活と心根、働く子供たちの泣き笑いとその成長を描いた物語です。
これまでも何度も書いてきたことですけれど、岩崎京子さんの文章は日本の宝です。子どもにも、若者にも、その親にも、年取った人たちにでも、すーっと染み通って行くような簡潔で艶のある美しい語り。江戸期の少年少女たちのひたむきな澄んだ心が、痛いほどに伝わってきます。
声高な主張や複雑なストーリーはありません。けれども、この時代への、子供たちへの岩崎さんの愛情が、ふんわり手をにぎられた時のように、優しく温かく感じられます。そしてまた、当時の社会の仕組み、風俗、職人の仕事にかける心意気が、とてもわかりやすく描かれていて、その事にも感動せずにはいられません。
厳しい時代であり、貧しい時代であったけれど、本物の人間がいた時代なのだと羨ましくさえなってしまいます。どなたにもおすすめできる名作です。
花のお江戸の朝顔連 (どうわのとびらシリーズ) 花のお江戸の朝顔連 (どうわのとびらシリーズ)岩崎京子著
これもまた、江戸期の職人ものです。こちらは植木屋さん。
こちらは、小学中学年向きですから、さらに小さなお子さんにも読んでもらえます。身分は違うが、仲良しの「たえ姫」と、植木屋の娘「おいっちゃん」が、江戸で流行った新種朝顔づくりに挑戦する物語です。
岩崎さんの物語の特徴ですが、子供たちがほんとに元気で生き生きしていること! 読んでいて気持ちがいいです。
これも何度もいいますが、文章が心地いいのです。子どもの柔らかい心に、美しい日本語がとけこんでいくのが見えるようです。新作を読むたび、私は岩崎さんの文章に酔いしれてしまいます。簡潔で易しく艶のある文章は、誰にでも書けそうで、そうそう書けるものではありません。童話、児童文学の文章文体の一つの完成形を、どうぞ、この二冊でご照覧あれ!
太平のカメ日記 (文研じゅべにーる) 太平のカメ日記 (文研じゅべにーる)別司芳子著
こちらは、今関信子さん主幹の同人誌「ごんたくれ」同人の作家、別司さんの新作です。
大好きな女の子晴菜ちゃんへの義理立てで、好きでもない亀を飼ってしまった太平は、その晴菜ちゃんが見てくれないかなあと、カメ日記のブログを始めます。そのブログへコメントしてくれた亀好きの女の子「なおリン」と、偶然出会ってしまった太平は、なおリンが、同級生の実香のお姉さんだと知ってしまいます。
実香はとっても正義感の強いボーイッシュな女の子。でも、なおリンはダウン症の太ったお姉さんでした。思いこんだらいうことをきかないなおリンに困っている実香は、なかなか友達を家へ呼べないでいたのでした……。太平、なおリン、実香、それぞれに弱い部分、悩みを抱えながら、お互いの存在に感動して仲良くなっていく過程が無理なく、すうっと心に入ってきます。子供たちって素敵だ! 心からそう思える物語です。
重いテーマを爽やかに描ききった手腕、さすがです。読後、温かい気持ちになれます。爽やかに本を閉じたい方へおすすめ致します。