お祝い会に先立って、子どもの頃の思い出

子どもの頃、私は京都東山の路地裏で育ちました。
その頃は、露地(京都ではどちらかといえばこの字のイメージです。「ろじ」ではなく「ろーじ」と読みます)には、裏長屋と表長屋があって、かたちでいうと郵便のマークに似ていました。つまり、「〒」の横二列が表と裏の長屋、縦一本が露地です。ここには、たしかお姉さんお兄さんを含めて十数人の子どもたちがいました。
夏休みのまだ夜の明けぬ内に、私の父が東福寺のお山へ、その子どもたちを引率して、虫取りに行きました。ただし、男の子だけ。女の子の私は連れてってもらえませんでした。その日、男の子たちはカブトやクワガタを捕って、わいわいいいながら帰ってきます。
「どこそこの木がすごかった」とか「あの奥に行けばもっといる」とかいい合う男の子たちが羨ましかったのを、今でもリアルに思い出します。
父は、私のために一番大きなカブトやボウズ(カブトの雌のこと)を捕ってきてくれて、それはそれで嬉しく、私はカブトやボウズやブンブン(コガネ虫)が大好きな女の子でした。
でも、本当は東福寺の森へ行って、自分で捕ってみたかったと今でも思います。
それを叶えてくれたのは、幼い頃別れ別れになった兄で(私は高知から京都へ、養女としてもらわれてきた子です)、場所は高知の山でした。その時には、私はずいぶん大きくなってしまってからでしたので、幼い頃のドキドキ感はありませんでした。
父は最後まで、私を虫取りには連れてってはくれなかったのです。
今、大人になって思うことは、子どもには虫取りが最高の体験になる年齢というのがあって、その時こそが人生の宝物を見つける瞬間です。
今、小学生のお子さんがいるお父さん、お母さん、どうか、スーパーで買った虫で済ませよう思わないで。一度だけでもいいから、森へ虫取りに連れっててあげてください。
来年の夏こそ、きっと!
とまあ、なぜ、年末も近いこの時期にそんなことを思い出したかといえば、宇佐美牧子さんの『合い言葉はかぶとむし』(ポプラ社)のお祝い会があると知ったからです。
合い言葉はかぶとむし (ポプラ物語館)
この物語は、木登りや虫取りが大好きな女の子のお話です。森の空気感、カブトの匂い、子どもだった頃の記憶がたちどころによみがえってしまいました。そんな女の子もいていいじゃないかと、作者のメッセージが伝わってきます。そうですとも。私はそういう女の子でした。
お祝い会には伺えないので、せめて、お祝いの一言なりとも、ここでお伝えしたくて。
おめでとうございます、宇佐美さん。