『やぶ坂からの出発』『クローバー』

やぶ坂からの出発 (文学の散歩道)
季節風同人、高橋秀雄さんの『父ちゃん』シリーズ完結編です。
出会い、そして別れ、人は皆旅立つ。明日につづく今日があった。明日はどんな明日なのだろう。
良夫がとうとう卒業です。シリーズを読んできた読者にとっては、まるで、家族の一人が卒業するように感動してしまいます。一抹の寂しさと、青空のような希望。
ああ、とうとう終わるんだ…と、なんだか寂しくなっている自分にとまどってしまいました。
読者までも家族のような気持ちにさせてしまうなんて、名作シリーズだったんだなあと、今さら思い返しました。
私はことに伍一が大好きです。その伍一ががぶっとやるヤモの旨そうなことったら! 私もがぶっとやってみたいと、みんなが思ってしまうのではないでしょうか。
ヤモをがぶっとやって、頭も尻尾も残さずきれいに平らげるその食べ方だけで、伍一の人間性が鮮やかに立ち上がってくるこのシーンこそが、高橋作品の香り立つところです。
食べてないのに、ヤモは旨かったなあ…ってつぶやいてしまいそうです。
クローバー
プレアデス同人、中西翠さんのデビュー作です。児童文芸家協会創作コンクール優秀賞作品。ヤングアダルト向き。
四つ葉のクローバーを探して隠して、もう一度見つけて……。
好葉(このは)の秘密。それは、しろつめぐさの四つ葉を、誰にも見つからないよう、図書館のできるだけ難しそうな本や重たそうな図鑑などに、そっとはさむこと。
なんとなく、ぼんやりした成り行きで始めたことですが、いつの間にか、それはドキドキするゲームになっていきます。
なぜなら、好葉の四つ葉に気付いた誰かがあらわれたからです。四つ葉と一緒にそっとはさんであったメモに書かれた文面を読んで、好葉は相手を想像します。いったい、どんな王子さまなのかと……。
思春期の言葉にできない心の揺れが、四つ葉をめぐって伝わってきます。物語に、ぶっ飛んだところはありません。ごくまっとうな恋物語です。
でも、図書館の本に四つ葉をはさむという発想の面白さ、いけないことだけど、やってみたくなってしまうところがドキドキわくわくするんですね、きっと。
王子さまは誰だったのか? 好葉の恋は実るのか? それは読んでのお楽しみということで。