『時空忍者おとめ組』の読者&作者お気に入りシーンその1

時空忍者 おとめ組! (講談社青い鳥文庫)
「美しい姫とは……。お乱、そちより美しいか?」
 信長が乱にいった。
 乱がしずかに顔をあげ、信長を見た。
 天主最高層の七層目は、とびらを開けば空の見える外縁である。
 見わたす限り、果てしのない青空がひろがっている。
 その青空を背にした乱に、七丸はみとれた。
(りりしく、強く、お美しい兄上……)
 七丸はほこらしかった。
 だが、顔をあげた乱の眉は、こころなしか、つり上がっている。
 それを見て、七丸はまたどきどきした。
「殿。どこぞの姫はともかく、わたしは武者として殿にお仕えしております。そのような、おからかいは心外にございます。」
「怒ったか?」
「怒っております。」
 乱は、信長をまっすぐ見上げていった。
「そうか、怒ったか。そちは怒った顔がさらに良い。ははは、時々は怒らせてやろうぞ。」
 信長はきげん良く笑った。
「殿!」
 乱はにらみつけたが、信長はその顔を愛でるようにながめ、大きくのびをした。
(みんながこわがるお屋形さまなのに、兄上は、ちっとも、こわくないのだろうか!?)
 七丸には、それもふしぎだった。
「姫ならば、会うてみるか。」
「しかし、殿。先日は、伊賀の化生の者が城内へ忍びこんでおります。姫の一行に化生の者がまじっておらぬとはいいきれませぬ。ウルガン殿に使いをやって、どの大名家の姫か、まず、おたしかめください。お会いになるのは、そのあとになさいませ。」
「ふふ。乱よ、そちは用心深いの。だが、伊賀の化生であれば、さらにおもしろいではないか。耶蘇教を信じる清楚な姫か、化生の姫か、どちらにしても、一見の価値はありそうだぞ。」
 信長は笑って、外縁へ歩み出た。
『時空忍者おとめ組1』より。(C)越水利江子 ALL RIGHTS RESERVED.