うそ、ごまかし、やめろ、やめろ

日曜美術館、農民画家、常田健の絵が素晴らしかった。
どの絵にも人間がいる。戦士がいる。愛と闘いがある。
種をまく農民、顔は見えない。だが、種をつかんでまくその手に、隠しようのない愛が溢れている。
田畑へと仕事に出る農民たち、その横顔は戦士にしか見えない。何かを護るため、戦いにおもむく戦士の列。手にした農具は命を育てる道具だが、命をむしばむ者たちに向けては武器になる。
農民闘争デモの絵もあった。
怒りもあらわに、人々が掲げるのは「核の字に大きくバツ」「うそ、ごまかし、やめろ、やめろ」「えばるな悪党」。3.11脱原発デモかと思ったのは、私だけではないと思う。本物は古くならないのだ。
(※追記/3.11以降、全国での脱原発デモは毎日のように起こっている。地域での最大デモは7万人だが、TVではほとんど報道されていない)
常田健が描く農民はみな不屈の戦士の貌、たくましい四肢。だが、当時、都会の私達は彼らを見ていたか? 他人事と知らん顔をしていなかったか。
「核の字に大きくバツ」「うそ、ごまかし、やめろ、やめろ」「えばるな悪党」3.11以前のこの怒りを、私達は今こそ共有しなければならない。
私達はようやく気づいたのだ。この国がいかに病んでいるか、いかに利権に支配されているかを。3.11以降、原発事故以降に……
「核の字に大きくバツ」は、イコール「原発に大きくバツ」であると。
「うそ、ごまかし、やめろ、やめろ」「えばるな悪党」原発事故の後、これらの言葉を、心のうちで叫んだ日本人は無数にいるのではないだろうか。
この日曜美術館の今回のゲストは、クリエイターの箭内 道彦(やない みちひこ)さんだった。箭内さんは福島の人。やはり、農民闘争の絵に注目していらっしゃった。
今、この画家を取り上げ、箭内さんをゲストに迎え、農民闘争の絵にスポットをあてる。そのことに、NHKの制作にかかわる人の、秘められた良心を感じたのは、間違いだろうか。

原発事故以来、一部を除いて、大手マスコミ報道はひどく偏っていたことは、もう誰の目にも明らかになってしまった。
福島原発事故は、メルトダウンしないと報道されたのに、メルトダウンした。
チェルノブイリにならないといわれたのに、同等になった。
事故は収束したという政府のたてまえを報道したが、事故はまったく収束していない。
いや、今も恐るべき量の放射性物質が漏れ続けているし、今でもボロボロの四号機が、次の地震で壊れたら、地球の北半球全体を台無しにしてしまうほどの放射能が漏れだす危険が続いている。
そのなか、マスコミあげての瓦礫拡散推進は続いている。安全だから、受け入れるべきと。けれど、これまで、こんなに騙されてきたのに、それを信じられるだろうか? また、安全デマではないのかと思う人が多いのは当然だ。
海外ニュースや自由報道のニュースに注目している人たちは皆、もう大手新聞もTVも見ない、信じないという。無理もない……と思うけれど、私はまだ人を信じたい。
組織は信じられないとしても、そのなかに、人がいる。秘められた良心をもった人がいるはずだ。
今回の日曜美術館も、そういう人の企画だと信じたい。

常田健の絵は、人間の愛、不屈の精神を信じさせる力があった。
ありがとう、常田健さん

大地の画家・常田健 〜箭内道彦が行く津軽の旅〜