『逢魔が時のものがたり』著/巣山ひろみ 絵/町田尚子

逢魔が時のものがたり (ティーンズ文学館)

逢魔が時のものがたり (ティーンズ文学館)

一般社団法人日本児童文芸家協会が選定する第42回児童文芸新人賞受賞作品。夏休み、麻子は祖母の家のうらの森に足を踏みいれた。行っちゃいけないといわれていた森だった。太陽はしずんだけれど、まだ明るい。ハスにおおわれた池で花をつもうとした麻子の前に、突然少女があらわれる。少女との出会いによって、麻子がそれまで知らなかったことがつぎつぎと明らかになって……。(第二話「白い月」) 逢魔が時に子どもたちの周囲で起こる五つの不思議なものがたり。(内容紹介より)
目次から謎めいていて、心惹かれます。
赤い花、白い月、放課後は雨、ぬけ道、のぞき窓……どれも、ものがたりにただよう得も言われぬ雰囲気に誘われ、一気に読んでしまいます。
彼岸花の赤い色の妖しい鮮やかさ、雨の降る神社の寂しいような悲しいような石段、ぬれそぼる手足や、ぬれたシャツが冷たく肌にくっつくあの感覚、見知らぬ抜け道のどこにつづくかわからない不安、のぞき窓から見えるのは、現実の世界なのか…と、ふと疑う瞬間……などなど、現実の皮膚感覚、不安などを誘い出し、子ども時代の幻想を体験させてくれます。
ことに、「白い月」は深く心に沈潜してくる物語です。それに、こんなふうな「のぞき窓」は、これまで書かれたことがないのではないでしょうか? 
ティーンの読者はもちろん、ファンタジーを目指す書き手さんにも、ぜひ読んでほしい物語でした。現実からかい離した不思議話はファンタジーとはいえません。どんなに不思議な話でも、見たこともない空想の国のハイファンタジーであっても、人間の心のひだや、皮膚感覚は現実でないと、本物のファンタジーとはいえないからです。
逢魔が時は、私も『忍剣花百姫伝』などで描いていますが、もっともっと書いてみたくなりました。
町田尚子さんの絵も素晴らしいです。