『ゲンタ!』風野潮(ほるぷ出版

ゲンタ!

ゲンタ!

転落事故を機に小5の蓮見ゲンタと、25歳のミュージシャン・ゲンタの心と体が入れ替わってしまった。説明しても信じてもらえず、見ず知らずの他人として暮らすことになった二人のゲンタたちは……夏の2週間を描いた成長物語。
―ぼくは、ぼくに、もどりたいだけなんだ!林間学校での転落事故をきっかけに、小5の蓮見ゲンタと、25歳のミュージシャン・ゲンタの心と体が入れ替わってしまった。いくら説明しても小学生だと信じてもらえない蓮見ゲンタは、見ず知らずの青年『ビート・キッズ』のゲンタとして暮らすことになり…。
(内容紹介より)

あの「ビート・キッズ」が、帰ってきた!?と、ドキドキして読み始めました。
魂が入れ替わる話ならほかにもあるけれど、小学男子ゲンタと、今をときめく青年、二十五歳のゲンタが入れ替わってしまうなんて、いったい、どう描くんだろう〜と、ハラハラする気持ちもあったのですが、やや弱々しい小学男子ゲンタの一人称で始まる語り口は、小学生らしい悩みもありながら、かといって、素直に悩むというより、反発して意地悪になってしまうあたりが、すごく小学男子らしくて、こういう少年を書けるからこそ、この設定なんだ〜と、つい、作家視点になって感心してしまいました。
そしてまた、二十五歳ゲンタの登場には、やっぱり、あのビートキッズを思いましたが、このゲンタ、べたべたの大阪弁がおもしろすぎで、ビート・キッズの時より、さらに磨きがかかっているような……。
物語の展開は、ここに書くより読んでもらったほうが絶対にいいので、詳しくは書きませんが、個人的には、子どもサトシがかっこよすぎて、子どもだということを忘れそうになってしまいました。大人ゲンタが子供っぽく、子どもサトシが大人っぽいという不思議な関係……でも、だからこそ、リアリティがあるのです。
読み終える頃には、読者もまた、年齢の違いなど、ひとっ飛びに飛び越えてしまっているかもしれません。
子どもと大人の間にある「心の距離」を、こんなに一気に詰めてしまえる物語に出会ったのは初めてです。