『マジックアウト』1〜3 著/佐藤まどか

マジックアウト〈1〉アニアの方法

マジックアウト〈1〉アニアの方法

未曾有の危機に瀕し、絶望におちいった国。救うのは、天賦の「才」か、積み上げた「知」か?すべてを失ったそのとき、新しい何かがはじまった。真の天命とは何か?エテルリア国存亡の危機を救うため、定められた道を変えていく少女の永きたたかいが、今、幕を開ける。本格長編ファンタジーデータベースより

海に囲まれた美しい小国エテルリアは光り輝く黄金の島。

そして、この国の人々の多くは、魔法ともいえる「才」に恵まれているのです。
エテルリアは才術の国。すべての才が結集され、病気も災害もコントロールされ、ゆたかな環境も文化も才術によって思いのままの国。

しかし、ある日、すべての才術の効力が消え失せ、エテルリアは太陽の光も射さない深い霧と強風の国になってしまいます。電気も食料もなく、暴力と暗黒に陥ったエテルリアで目覚めたのは、才の国に生まれながら、すべての才にめぐまれず、この国では、無才人と呼ばれ差別されてきた少女アニアでした。

才によってコントロールされていたすべてがコントロールできなくなり、「電気をつくるためには、これからは風力発電を」と、呼びかけるアニアに立ち塞がるのは、一からやり直すなんて無理だという人々、そのうちまた才術が使える日が来るんじゃないかと展望のない希望にすがる人々でした。

それはまさに、3.11後の日本の姿を見るようでした。
すべてを失った今、どのように新しく始めるか…その問いは、現代の日本人に強く迫ってきます。
なにより、魔法の国の落ちこぼれ魔女が、やがて凄い魔女になるといった設定ではなく、まったくその能力のない無才の少女を主人公として、無才であることの意味を問いつつ、その力の大きさを描いていくこの物語は、本当の意味で、人への愛と優しさに満ちた物語だと思いました。(2013/5/11のブログ記事より)

マジックアウト〈2〉もうひとつの顔

マジックアウト〈2〉もうひとつの顔

少女アニアの運命がふたたび動きだす…わたしはいったい…何者?絶望という闇に光をあたえたひとりの少女、アニア。そして、封が解かれた国にふたたびせまりくる闇。異国へわたるアニアを待ち受ける運命とは…。データベースより
マジックアウト〈3〉レヴォルーション

マジックアウト〈3〉レヴォルーション

異国で死んだはずの妹に出会い、マジックアウトを解決する糸口を見つけたアニア。苦難を乗りこえ祖国エテルリアへもどると、市民戦争という予期せぬ事態が待ち受けていた。はたして、マジックアウトは終わるのか? 少女の永きたたかいはクライマックスをむかえる…。 データベースより
というわけで、続刊も一気に読ませられました。
二巻、三巻を読んだ印象は、一巻とは少し違っていました。
少女の物語なのに、物語全体の印象は、少女小説と呼ばれるような甘さがありません。
国家とは?政治とは……?といった、硬質のテーマが物語全体に据えられていました。
物語はファンタジーなのですが、据えられているテーマは普遍的で永遠のテーマです。物語の流れを語るとネタバレになってしまうので、ここでは語りませんが、この硬質なテーマを選び取った作者が、日本在住ではなく、海外に居住していることは、この物語にとって大きかったのではないかと思いました。
国内から観る国家は、ある種いびつです。
世界歴史上、最大最悪の原発事故さえ、日本国内では多くは伝えられず、いかに、事故の被害を覆い隠すかということに最大の政治力が使われていることは、国内にいては、なかなかクリアには見えてこないのです。
いえ、日本だけではなく、どの国であっても、一つの国家を俯瞰して観るには、その国家から一歩踏み出して、世界を見なければなりません。強い執着を感じる故国を離れることで初めて、故国を含む世界を俯瞰することができるようになるのかもしれません。
国家とは? 国民の幸せとは?
この物語の主人公たちは、ひたむきに理想を追います。決して、逃げません。
私達もそうありたいと思った物語でした。