図書館で読めるあの名作『ヒョコタンの山羊』著/長崎源之助

ヒョコタンの山羊 (長崎源之助全集 2)
かつて、名作と言われた児童文学が書店の棚から消えて久しい。けれど、図書館なら、今でも読める名作をもう一度! 
『ヒョコタンの山羊』には、牛や馬を屠殺する職業のキンサンが描かれます。
在日朝鮮人のキンサンは、小学校を出て三年ほどで、「牛殺し」と呼ばれる屠殺人になりました。
ふだんはおとなしいキンサンが、屠殺の瞬間、バットをかまえると、どんな暴れん坊の牛で縮み上がってしまいます。それほど、キンサンの全身から殺気が放たれ、見るも恐ろしい顔になるのです。
バットをかまえたキンサンの細い目は、研ぎ澄まされた刃物のように光り、盛り上がった力こぶも、胸の筋肉も汗にてらてら光って、どんな牛でも馬でも、一撃で瞬殺してしまいます。
けれど、バットをふるうキンサンにとっては、助けを求めるような、悲しそうな牛や馬の顔を見る時が一番辛いのです。中には、涙を浮かべている馬もいて、そんな牛や馬の表情に、キンサンの心はにぶります。
だからこそ、楽に死なせてやらねばならない、一撃で殺してやるためには、眉間の急所を絶対はずしてはならないと、キンサンは怖い顔になるのです……。

この物語はキンサンを通じて、戦争とはどういうものか、どれほど、人の運命を狂わせ、追い詰めるかを、子どもの目を介して描かれます。今こそ読まれ、語られなければならない物語であると思います。
人間が人間を殺し続けた歴史の重さを、ズン……と感じ取れる一冊です。