取材で感じた安土城址のオーラ…『うばかわ姫』著/越水利江子・イラスト/こより

日本歴史上、類を見ない大天才であり、大魔王ともいえる織田信長は、時代小説を書く者にとっては、いつか書きたい戦国武者の第一ではないかと思います。
私自身、これまで、『時空忍者おとめ組』シリーズ(講談社青い鳥文庫)、『江 戦国を生きた姫たち』(ポプラ社ポケット文庫)などで、度々書いてきたのが織田信長でした。
京都に住まいしているので、信長の晩年の居城『安土城』のある滋賀県は、車で行けば、一日で取材ができます。ので、安土城址や、安土の町、琵琶湖周辺などに、何度か取材に行きました。

うばかわ姫 (招き猫文庫)

うばかわ姫 (招き猫文庫)

かつてそこに聳え立っていた安土城は、天下統一を目前にした織田信長が築城したまさに天下人の城でした。
その美しさ、造城技術、その規模、豪華絢爛なデザイン性などは、当時日本へ来ていた宣教師たちを通じて、ヨーロッパへも名をとどろかせた名城だったそうです。
とはいえ、築後一年で、信長は本能寺の変で横死、天守、本丸は、信長の死後、築後三年で謎の炎上をしてしまいます。
世界一美しいと、宣教師ルイス・フロイスが讃えた名城は、この世にたった三年姿を現しただけで消滅してしまったのです。
忽然と、この世から消し去られた城主と城。
生きていれば、日本の歴史を変えたかもしれないこの城と城主を、いつか、時代ファンタジーとして、思う存分書きたいと、私はずっと思ってきました。
そして、ようやく、書くことができたのが、この『うばかわ姫』でした。
かつては、楽市楽座として輝くばかりの繁栄をした安土の町と安土城址。
けれど、織田家はすたれて、安土城は廃城となり、安土の森に呑まれていく戦国末期が、この物語の舞台です。取材に訪れた安土の丘陵には、はるか戦国の空気感が残っていて、深く閉ざされた安土の森に、かの城主と従者の霊が今も佇んでいるのではないか……幻の名城は今も深い霧の中に浮かんでいるのではないか……と思いました。実際、あの地には、何か妖しいオーラのようなものを感じます。
妖狐跋扈する戦国末期の安土の地、そこに現れる不思議の物語を、ぜひ読んで下さいね!


←再現された安土城内部。(資料館)
その安土城ですが、かつて山全体が城郭だったといっていいのですが、その十分の一のみ遺跡発掘されて、今は中心部の礎石や石段、石垣を見ることができます。