作家と読者は同志だと思う!『うばかわ姫』の世界


うばかわ姫 (招き猫文庫)

うばかわ姫 (招き猫文庫)

うばかわ姫の世界観は、ずっと以前から、私の中にありました。
戦国時代を考察すると、滋賀県(ことに琵琶湖あたり)がいかに要衝の地であったかということに行き当たります。
この地が、都であった京へ至近であったことも含めて、東国西国を繋ぐ街道、航路などを調べれば調べるほど、この地が凄い場所だったのだと、呆然とするぐらいです。
この滋賀県の安土に、天下一(美しさにおいては世界一とも)の城を築いた織田信長の慧眼とセンスは、時代を超えて日本人の胸に迫ってきます。
数ある魅力的な戦国武将の中で、信長が突出しているのは、天下布武という戦国武将的政治思想だけでなく、その芸術的センスと、狭い日本の価値観だけに囚われず、遠国から来た宣教師を保護し、そこから世界に学ぼうとした姿勢だったと感じます。
その夢の跡である安土城址へ行けば、今も、そこに信長の夢のかけらが漂っているような気がして、この物語の芽は、これまでも、私の作品のあれこれに顔を見せています。
ただ、児童書では許されなかった素材と展開でもあり、長く私の中に眠っていた世界でもあります。それをまず書かせて下さったのは、徳間書店の文学誌「読楽」でした。
読楽に掲載され好評だった短編を連作長編にしたのが『うばかわ姫』なのです。
夜ともなれば真の闇に包まれるあの安土の森の深さ、妖しさ……城址に今も漂う王の覇気のごときもの……これこそが、私の書きたい世界観でした。
そこへ、対照的であるけれども、魅力的な女二人の人生を重ねて、書き上がってみたら、まさに愛の物語になっていたのも不思議なことです。
私はどんな作品も、プロット通りに書くという事のない作家で、いつでも、書き上がってみないと、作品の全体像は現れてこないのです。
でも、だからこそ、書くことの冒険が楽しくてならないともいえます。
基本、作家自身が楽しまない作品に面白いものはないと思っています。実際これまで、私が最も楽しんだと思える作品たちに、濃いファンが多いです。
読者と書き手は同志なんだなあ、本を読んで貰った後、気が付けば、互いに同志になっているんだなあと思います。
これまでの濃い同志の多い拙著↓
忍剣花百姫伝(一)めざめよ鬼神の剣 (ポプラ文庫ピュアフル)

忍剣花百姫伝(一)めざめよ鬼神の剣 (ポプラ文庫ピュアフル)

(全7巻)
恋する新選組(1) (角川つばさ文庫)

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(全3巻/外伝1)
花天新選組―君よいつの日か会おう

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(『月下花伝』とのシリーズ)