『もりモリさまの森』著/田島征三 絵/さとうなおゆき


昔、作家でもなく、私が主婦だった時に出会った絵本作家の田島征三さんの新刊です。
1996年東京の西多摩郡日の出町にある水源の美しい森を壊して、巨大処分場が作られようとする頃、それに反対していた地元の人々や征三さんが発行していた「日の出の森からの新聞」は、私も読者でした。
あれから二十年、森は破壊され、処分場は作られてしまったけれど、地元の人々は今も周囲の環境調査を続けていらっしゃるのです。
そういう時に、この本が発行されました。

もりモリさまの森

もりモリさまの森

これまで、日本という国は、自然を大切に生きてきたはずなのに、あの頃から今に至るまで、住民無視の自然破壊が続いています。
それを見直すことなく、今の日本の政治は、原発さえやめようとはしません。おかしい、間違っていると言わせないような圧力が働いているのも事実です。
だからこそ、人間も動物たちも合わせた命の視点に立って、この物語を読んでみて下さい。
現代人にとって、命と自然を再び考え直すきっかけになってくれることを祈ります。

この物語は、よくある童話のようにすっきりとハッピーエンドに終わっていません。
むしろ、苦しみと痛みを残して闘いを描くことによって、「もう一度考え直してみませんか?」と問いかけてくるようです。
そうなんです。今の日本人に必要な物語は、すっきりハッピーエンドで片付けてしまうようなものではなく、物語のなかに立って、一緒に苦しみ、考えることなんです。
動物たちにとってかけがえのない自然は、人間にとってもかけがえのないものです。破壊され、毒で汚されてしまってからだって、命が生きていくためには、止めなければなりません、これ以上の破壊を、これ以上の汚染を。
そう決意して生きる事こそ、今の日本人に求められていることではないでしょうか?
そして、さとうなおゆきさんが描かれたイラストも素晴らしいです。さとうさんは、かつて、処分場推進のための新聞の絵を描いてらしたそうです。でも、その間違いに気づかれて、征三さんの童話に絵を描いて下さったそうです。処分場に反対した人たちが負けたのではありません。一人の才能ある画家が、こちらへ歩いてきてくれたのですもの。闘いはまだ続いているのです…
written by越水利江子