モデラートで行こう

モデラートで行こう (ピュアフル文庫)

モデラートで行こう (ピュアフル文庫)

風野潮さんの本は音楽が聞こえてきます。
児童文学賞を三冠受賞し、映画化もされたデビュー作『Beat kids』もそうでした。
今回は、ブラバン部の少女たちの群像が、それぞれの語りで展開される手法です。
かつて後藤竜二さんがこの手法を駆使して『十二歳たちの伝説』シリーズを書かれています。
この手法の難しさは、語り部がどんどん交代していくので、読者が一人の主人公にだけ注目していては、ついていけなくなることです。
また、それぞれの語り部ひとりひとりに他にはない魅力がなければ、これもまた、読者をつかみきれないで終わってしまう危険性があります。
文章の達人、後藤竜二さんはこのあたりをなんなくクリアしてらっしゃいます。
一方『モデラートで行こう』はどうかというと、これはもう、一言でいうと、少女たちの魅力ですいすい泳いでいく感じです。
読者にブラバン部の経験があり、しかも女性なら、うっかり読んでいると、気づけば少女たちの群像に取り込まれて、いつしか自分も物語の中のひとりになったような錯覚を覚えるかもしれません。
うがった理想を唱えるのでもなく、芝居めいたストーリーが熱く語られるのでもなく、思春期の夢や希望が等身大で淡々と明るく描かれています。
そう、淡々と描かれているからこそ、思春期の読者はそこへ自分自身を投影できるのです。
そういう意味では、『モデラートで行こう』は、まさに少女のための少女小説といえるのではないでしょうか。