見えない絆&栗本薫さんのこと

 庭の咲き折れ花
人と人はどう結ばれているのか、結ばれていないのか。このところ、よく考えます。
夫婦、親子には良くも悪くも強い絆があるように思います。どんなに失望しても、そこから逃げ出したいと思っても、たいていの場合は腹の虫を抑え込んでいるうちに、ま、いいかと思え始め、気がつけば、失望にも慣れていき、やがて、緊張感がなくなってくれば、それが居心地いいとさえ感じるのではないでしょうか。そして、長年の間にはそれがゆるぎない愛に変化したりもします(例外はありますが)。
戸籍という簡単には破棄できない契約のつながり、破棄しようとも脈々と途切れることのない血のつながり。絆というなら、それほど強いものはないような気がします。
それにひきかえ、恋人(経済的に自立していて、子どものない愛人も含む)、友達といった契約や血のつながりのない人間関係の絆というのは、あるのないのか、長い時間を経てみないとわからないようです。いえ、死ぬその瞬間まで、わからないのかもしれません。それは見えない心でつながっているだけの、実に一方的な思いでしかないからです。
いわば、人生という戦場へ、鎧兜もつけず、武器も持たずに、参戦したようなものです。生き残るには逃げ回るしかないし、けがをした戦士を見つけて手当てをしてあげたり、励ましたりぐらいしか役に立ちません。ということは、彼らは救急班、医療班でしかないのかもしれません。戦場で傷ついた戦士を癒し、命をかけて護り抜いた瞬間は感謝されます。でも、薬や包帯がなくなったら? 精も根も尽き果てたら? あるいは傷を負って自分が倒れたら? 役立たずとして見捨ててゆく戦士もいるでしょうし、もしかしたら、今度は逆に救ってくれる戦士もいるかもしれません。その場が激戦なら、確率は9割がた捨てていかれるでしょうけれど。そうなることを覚悟しなければ、契約のない愛情や友情は成り立たないのかもしれません。なんと、人生はサバイバルでしょうか。
ですから、多くのひとは契約を求めますし、契約のない男女を世の中は蔑みます。無償の友情はすばらしいけれど、無償の男女の愛は卑しいと(というより、男女に無償はないとでもいいたげです)。でも、そこに、なんの違いがあるのか、私にはよくわかりません。利害関係が一致した家族が助け合うのは当然です。だって、「親ガメがこけたら皆こける」のですから。でも、その外側にある愛や友情は精神的なものだけで成り立っているのです。だから、いわば医療班なのです。(もっとも、無償のふりをして、ふところに長脇差(ながどす)を隠している人もいて、いきなりズブリとくることだってあるのですから油断はできませんが。)
で、その精神的な関係に、絆は本当にあるのでしょうか? あるのかもしれないし、そんなのは幻で、あっさり消えてしまうものかもしれません。それを確かめられないのが、無償の愛や友情の定めというものでしょう。そんなしんどいことを、なぜ、人は続けようとするのでしょうか。永遠の謎です。いえ、もしかしたら、それが、目に見えない絆というものなのかもしれません。人は本能的に知っているのかもしれません。自分の魂にとって、本当に必要な魂がどこにあるのかを。故郷というべき魂の存在を。
何の本だったか、ソウルメイト(魂の伴侶)を見間違えないチェックポイントといったものが書かれていました。
「故郷が同じであることが多い」「好きなこと、人生体験に共通することが多い」「出会いに偶然が重なる」「人生を振り返ってみれば、たびたびニアミスがあった」といったことだったでしょうか。そういうご夫婦なら、素晴らしい契約をなさったわけで、最高ですね。

とまあ、今日はここまでにしておきます。季節風の投稿原稿がどさっと届いていて、明日が編集会議なので、読まねばなりません。
最後に、ひとつだけ。
栗本薫さんが亡くなって、ショックでした。56歳、まだまだ書ける年齢でしたのに。多才で、稀有な才能の作家さんでした。
わたしは、彼女の『グイン・サーガ』を50巻まで読んで力尽きましたが、現在は126巻。とうとう、未完で終わってしまいました。今も読み続けられている方々にとってはついに、豹頭の騎士グインの秘密があかされぬままに終わってしまったということになります。いつか、続きを読もうと思っていたのでとても残念です。そういえば、栗本さんには新選組ファンタジーというより、幻想(妄想?)新選組とでもいうべき『夢幻戦記』をハルキ文庫に書いておられますが、これも未完なのでしょうか? それとも、どこかに単行本とか、雑誌連載とかがあるのでしょうか。これも、いつか、自分が新選組を書き終わったら読んでみようと思っていた本でした。沖田総司が時空を超えてやってくる拙作『月下花伝』と、少女が時空を超えて新選組の世界におちる『花天新選組』は現実と歴史と幻想をないまぜにした物語ですので、これを書いているうちは読めないと思っていました。そして、今はまた『恋する新選組』という恋組シリーズを書いているので、まだ当分は読めません。でも、ずっと先に読んでも、未完なのですね。寂しい限りです。天国が本当にあって、栗本さんがそちらでもバリバリ書けますようにと祈ってやみません。合掌。
夢幻戦記〈15〉総司無明陣〈上〉 (ハルキ・ノベルス) 黒衣の女王 グイン・サーガ126 (ハヤカワ文庫JA) 月下花伝―時の橋を駆けて 花天新選組―君よいつの日か会おう 恋する新選組(1) (角川つばさ文庫)