笑顔に魅せられて…沖田総司との出逢い


【島田順司さん演じる沖田総司
まもなく、総司忌です。その講演をひかえて講演原稿の準備をしています。
恋する新選組』を書きおえて 新選組追っかけ泣き笑い作家人生”と題した講演なので、作家になる過程、その山谷の中で、まるで道筋をしめすように白く輝いていた枝折りの後を追ってみようと思っています。
【枝折り】とは、本にはさむ栞の語源です。山道で迷わぬように、ここを通ったというしるしに、山人が目の位置の小枝を折っていく道しるべのことです。
友人でもある冒険家二名良日さんと山へ登った時、二名さんが枝を折りながら進まれたのを目にし、けもの道と人間の通った道を見分ける方法を教えて下さったことなども思い出しながら、まさに、私にとっては、土佐、京都、幕末、龍馬、新選組……とつながっていく運命の枝折りを思い返したりしています。
私は土佐(高知)生まれの京都育ちです。実家の母系は土佐藩士でした。かつては重要な職にもついた家柄だと曾祖母は話していたといいますが、それは、どの時代のことなのか。もし長宗我部の時代ならば、わが母系は幕末には龍馬たちと同じ郷士だったでしょう。土佐藩は、長宗我部に仕えた旧臣たちを郷士として冷遇し、藩主山内家の家臣を上士としてその上においていますから。さて、どちらだったのか、いつかルーツをたどってみたいものです。
そんな私が京都の伯母の養女となってやってきたのは、京都東山。歩いて遊びに行ける距離に、東福寺知恩院がありました。東福寺の山門はまだ出入り自由でしたので、今は宝物館に収納されてしまった仁王さまの威厳のある雄々しいお姿を毎日のように見上げながら育ちました。その頃、これらの寺院は、映画やテレビの撮影によくつかわれていました。子どもたちの間で「撮影してるぞ!」という情報があると、路地裏の子どもたちがこぞって東福寺へ、知恩院へと駆けだしたものです。
そんな少女時代に、沖田さんに出逢いました。たしか、夏休みとかの再放送でしたけれど。今も新選組ドラマでは最高峰といわれる名作「新選組血風録」と「燃えよ剣」を観たのです。
その沖田さんを演じたのが、この方、島田さんでした。島田さんの沖田の凄みは、その豊かな表情の劇的な変化にありました。人を斬る瞬間の殺気の凄まじさには圧倒されます。でも、同時に、人を斬らねばならない痛みと哀しみが、その顔に悲痛に浮かぶのです。
島田さんの魅力はそれだけではありません。天童のような笑顔の温かさに癒されました。さらに、常に孤独に耐え、笑顔を絶やさないくせに、一人ぼっちになった瞬間、ふっと見せる、泣きだしそうな無垢な表情は、日本中の少女、若い女性の紅涙をしぼりました。
そしてまた、土方さんが良かったのです。言葉にはしないけれど、心から沖田を案じ思っている強面の土方は栗塚旭さんが演じられ、この二人の関係には、老若男女のファンが泣いたことでした。この時から、私は島田さん、栗塚さんファンです。
この少女期、わずかなお小遣いで、高価な歴史本を一冊一冊買いためました。新選組沖田総司土方歳三に関する新人物往来社のノンフィクションや小説などを。当時買った小説には、司馬遼太郎さんの『新選組血風録』『燃えよ剣』『竜馬がいく』、子母澤寛さんの『新選組始末記』などもありました。作家となって新選組を書くようになって、今は関係図書は何百冊もありますが、あの頃の本は数冊しか残っていません。でも、その一冊を開けば、今でも少女時代がよみがえってくるのです。
いわば、私の少女期は、土佐っぽの気質を受け継ぎ龍馬に親近感を抱いた少女前期、新選組に出会った少女中期、新選組を追って撮影所へ飛び込んだ少女後期に分かれるようです。そう、この後、私は島田さんの沖田さん、栗塚さんの土方さんを追って、東映京都撮影所へ飛び込むのです。いやはや、今から考えれば、なんと無鉄砲な!
でも、それが、作家への道のり、枝折りだったのだなあと、今頃になって、思い至っています。
とまあ、この後のお話は、6月20日総司忌講演で……。(いえ、念のため申し上げておきますが、その後、お二人とお近づきになったとかいう話ではありません。お二人は今も昔も憧れの方のままです。それはそれで良かったと今も思っています。憧れは憧れのままで、でも、それでも、運命の糸は続いている……という話ですので、その点、どうぞ誤解のありませんように)
というか、こんな日記を書いたのは、日曜の「龍馬伝」で、あんまりがっかりしてしまったせいかもしれません。池田屋事件なのに、新選組のあの扱い……。新選組は黙って池田屋に押し込んで、強盗みたいに斬ったりなんかしていません。
きちんと名乗って、さらに「手向かいをするな」と告げています。新選組は捕らえるのが目的で、斬るのが目的ではありません。
新選組や。また人殺しをするつもりか」「あんな恐ろしいことをするのは新選組だ」といったようなセリフが前回も今回もあって、心からシケました……(涙総司忌のご案内はこちら