水嶋ヒロさんの受賞作

【過ぎし秋…今年はどうかな?】

ポプラ小説大賞を受賞された水嶋ヒロさんの『KAGEROU』は発行時期未定といわれていましたが、どうやら来春に発行されるらしいです。
「粗削りだが、それを凌駕するパワーがあった」とされる選評と、審査委員がポプラ社編集部と役員だけという事実、受賞したのに発行時期が未定ということなどについて、さまざまな憶測が流れています。
でも、ポプラ社小説大賞は、もともと、これまでと違った選考方式で、新しくパワーのある作品を世に問うていこうという公募でした。
出版業界全体を眺めると、有名作家が選ぶ賞があって、読者が選ぶ賞もあり、書店が選ぶ賞もあるのです。出版社の編集者や役員が選ぶ賞があることは、一つの価値観に傾かないという意味でもいいことでしょう。


これまでは、それを特別視することはなかったのに、水嶋さんが受賞したとたん、この騒ぎです。
善意であれ、うがった見方であれ、取り沙汰されるのは版元にとってはいわば無料の宣伝のようなものですが、個人の水嶋さんにとっては傷つくような取り上げ方もまた目立ちます。
けれども、他出版社でもポプラ社でも、長年、本を出し続けている作家の立場からいえば、本になるまでに編集さんとやりとりをして、さらにいい形にして出版するという方法は、どんな大賞を受賞した新人さんでも、プロの持ち込みでも全く同じです。それをやらない本はありません。
この時期に受賞されて、編集さんとそういうやりとりをして、表紙の画家さんを決めて、絵を描いて頂いて、さあ出版するとなれば、ごく普通に来春ぐらいまではかかります。出版に向けてのその流れに、これまでの経験上、特別なものは感じません。
元来、出版社の内部事情などは、長年共に仕事をしている身にはいろいろ聞こえてくることもありますが、それらは、各作家とは分離して考えるべきです。作家にとっては作品がすべて。どこの版元であろうと、作家は、作品を評価してくれる編集さんと共に本づくりをするのですから。
水嶋ヒロさんほどの著名人が、一公募に応募されたという事実だけでも、その勇気と努力に脱帽です。そういう方だからこそ、新たな道も輝いて扉を開いてくれたのでしょう。
幸運は、勇気と努力なしには訪れてくれないのですから。
水嶋さんの勇気と努力を讃え、そのパワーの息吹を感じて、私も頑張ろうと思います。