『父は空 母は大地』著/寮美千子 絵/篠崎正喜


素晴らしい絵本でした。
なにげなく読み始めて、気がつけば、涙ぐんでいました。

ネイティブ・アメリカンの歴史は、私自身、『リンカーン アメリカを変えた大統領』に、執筆しました。
アメリカ大陸にやってきた白人たちが、いかにネイティブの人々(当時は、インディアンと呼ばれていました。今も、子孫の人々には、誇りをもって、自らをインディアンと呼ぶ方々がいらっしゃいます)を迫害、侵略していったか。
それは、リンカーンの生涯を描きつつも、胸が苦しくなるほどでした。
アメリカ大陸に鉄道を走らせるため、当時、ネイティブの人々にとっては命の糧であったバッファローの群れが、汽車の窓からゲームのように、次々銃で撃ち殺され、累々と野ざらしにされたのです。
それは、インディアンと呼ばれた人々の食糧を絶って、大草原から追い出すためでもありました。鉄道にとっても、大草原を自由に駆け巡るバッファローがじゃまだったのです。
リンカーンの時代の前後は、そういう時代でした。

この絵本は、1855年アメリカ政府が、インディアンの故郷(土地)を買い取り、居住地を与えた時に、その土地の首長が語った演説をもとにしています。
それに心を動かされた人が翻訳し、書きとめられた言葉は、まさに大地の歌であり、命の詩です。
大地や空、そこに生きる木や花や鳥や動物達と共に生きてきた人々の美しい詩であり、痛みと哀しみと、静かな怒りの言葉でもありました。

ワシントン大首長(大統領)が 土地を買いたいといってきた。
どうしたら 空が買えるというのだろう?
そして 大地を。
わたしには わからない。
風の匂いや 水のきらめきを
あなたはいったい どうやって買おうというのだろう?

すべて この土地にあるものは
わたしたちにとって 神聖なもの。
松の葉の いっぽん いっぽん
岸辺の砂の ひとつぶ ひとつぶ
深い森を満たす霧や
草原になびく草の葉
葉かげで羽音をたてる 虫の一匹一匹にいたるまで
すべては
わたしたちの遠い記憶のなかで
神聖に輝くもの。

わたしの体に 血がめぐるように
木々のなかを 樹液が流れている。
わたしは この大地の一部で
大地は 私自身なのだ。
(『父は空 母は大地』寮美千子より)

この言葉を、今の日本人はどう受け取るのでしょうか?
日本人にも、この土地のネイティブであるアイヌの人々を侵略し追いやった歴史があります。
けれど、今、皆が強く感じるのは、人間の命のサイクルから考えても永遠といわれるほどの長さで、故郷を奪われた人々がいることではないでしょうか。
この空を、大地を買い取ったとでもいいたげな人達(それは、当時のアメリカ政府と同じく、日本政府でもあります)によって奪われ、汚された美しい故郷……
ネイティブ・アメリカンの哀しみと叫びは、今、私たちと同じではないのか……と思いました。

残念ながら、この絵本はパロル舎から出たもので、会社が倒産したため、今は買えませんが、傑作絵本で、パロル舎でも版を重ねていた絵本なのです。どこかの版元が、再刊してくれないでしょうか…
それまでは、文章も絵も素晴らしいので、ぜひ図書館で見て下さい……といっていたら、ここで、新本、買えますよ〜と、寮さまからお知らせ頂きました↓
http://www.amazon.co.jp/dp/4894191180/harmonia-22/ref=?ie=UTF8&m=A2C8U8R05S18TC