戦後から現代まで、日本の子ども文化の百花繚乱『子ども文化の現代史』著/野上暁 

子ども文化の現代史: 遊び・メディア・サブカルチャーの奔流

子ども文化の現代史: 遊び・メディア・サブカルチャーの奔流

はんぱなく、濃いです。
日本の軍国主義下、敗戦によって、国民の家庭の大半は貧しく、本や玩具など家庭になかった時代、親や家を失くした子どもたちが巷に溢れたあの時代から……戦後の民主主義教育下に、たくましく育っていったのは、日本の子ども文化の花々でした。
それらは、創作者だけでなく、読者やファンをも育て、今、世界を席巻する日本文化、漫画やアニメや、オタク文化の百花繚乱の時代を迎えることになりました。
その流れと系譜を、かつて、子ども文化の発信人(小学館編集長/小学館クリエィティブ代表取締役社長)でもあった著者が解きあかしてくれます。
かつて、私自身も中高生時代、漫画少女であり、手塚治虫さんの虫プロ発行の「COM」の全国漫画組織ぐら・こんの関西支部に席をおいていたことがあります。
その手塚先生の担当編集でもあった若かりし野上さんと手塚先生とのツーショット写真に、思わず感動〜♪
とまあ、個人的な感動はおいといて、戦後から現代までの、日本の子ども文化の大きな流れが、この一冊に封じ込められている事は凄いです。いかに、日本の漫画、アニメ、オタク文化が、世界を席巻するようになったのか。今の若い世代が知らない歴史がこの本では、種明かしされています。長く子ども文化の現場にいた人にしか書けない情報量とその濃さには、誰もが圧倒されることでしょう。
そして、この本の最後に書かれたメッセージ、
「電子メディアが席巻している現在だが、ネットでのつながりや疑似体験よりも、生身の交流から得るものの方が大きい。子どもたちがそれを体験すると確実にはまりこむはずだが、親の世代の直接体験も失われているからリアルな体験をする機会はさらに減っている。その一方で、地域での伝統的な祭りの復興や、学童保育などでの遊び文化再生も細々と継承されている。このような直接体験の再興に、子ども文化再生の可能性もあるように思われる。」
という言葉には、私自身、まだテレビも電子もない子ども時代をわずかに体験している世代であるからこそ、テレビも電子もないからこその豊かさを享受した最後の世代であるからこそ、その言葉の重みに深く頷いた。
子どもをテレビ漬け、電子漬けにしては、今後、本物のクリエイターも文化も生まれない。
宮崎駿監督もおっしゃっている。「ゲームばかりしてきたとか、インターネットで情報を知ったとか、そういう人たちでは、紙で描くアニメーションはほぼできないはずです。そもそも彼らがアニメーションに興味をもつかどうかも疑問ですね…」と。
本物の深みのあるオタクさんは、電子の中からは生まれないのです。
その歴史も、ここに語られています。
自然に触れ、生きた人に触れ、本に触れて、本物の人間の文化を体験し、想像力を培って下さい、未来の子どもたちよ!(written by 越水利江子