『くらやみざか 闇の絵巻』著/天沼春樹(西村書店)

くらやみざか 闇の絵巻

くらやみざか 闇の絵巻

“わたし”は帰りつかない夢ばかりみている。目の前を横切る一頭の象、森に“箱”を設える男、鴉の通夜を執り行う女、夢を操る蜘蛛、本性を言い当てる易者見習いの青年、そして“わたし”に「物語」を託す巫女…。謎が深まりゆくなか、立ち現れる三人の女によって、いつしか“わたし”は、思い出せなかった世界、忘れ果てていた世界へと誘われていく。時が重なり、はまっていくピースの数々。仕掛けに満ちた、めくるめく幻想譚。(BOOKデータより)
主人公のイメージに、作者が浮かんでしまうほど、リアルに伝わってきた幻想譚だった。
登場する人々は、どの女も男も摩訶不思議なのに、浮かんでくるイメージがリアルなのは、作者の筆力に違いないのだけれど、いや、もしやこれは、実際に作者が観た白昼夢なのかもしれない……などと思ってしまう。
いかに摩訶不思議な話を書いても、人物がリアルに立ち上がってくる……これこそが作家、天沼春樹なのかもしれないと思う。
「帰りつかない夢ばかりみている…」という一言から幕を開けるこの小説を読んでいると、読者自身が帰りつかない夢を見ているような世界に引きずり込まれ、読み終えて尚、日常に帰りつけないような気がしてくる。
小説の中の様々なピース、イメージのかけらが心に残ってしまうからだ。
しばしの異界旅行を楽しみたい方は、どうぞ、手に取ってみて下さい。