『妖がささやく』(翠琥出版)

季節風の同人、後藤耕さんが参加しているアンソロジー
どれも、「妖が囁く…」というフレーズで始まる短編集。
執筆作家には、佐々木江利子さん、くぼひできさんなど中堅、ベテランもまじって、各児童文学賞などを受賞した作家の名が並ぶ。
←冊子風ソフトカバーなので、読み終えるとこうなる。
amazon妖がささやく
【BOOKデータの内容紹介】はとても丁寧なので、ここにはご紹介できませんが、↑上のamazonページでご覧くださいね。









読んでみて面白い企画だと思った。時代のことなるそれぞれの人生のふとした瞬間に聞こえてくる、妖しの囁き声。
物語は、すべて、そこから始まる。
個人的に、歴史小説が好きな私は、ことに時代小説の「妖と稚児」(斉藤飛鳥)や、伝説の僻地の民と、かつての宣教師めいた牧師との交流を描いた「沼の娘」(佐々木江利子)などを面白く読んだ。
他の作品も、短いにかかわらず、さすが第一線の若手ばかり集めただけあって、それぞれ読み応えを感じた。
「とりかえル」(後藤耕)は、画学生の青年の夢と憧れに囁きかける陶器人形のような妖が見えるような気がする。全編映像的で、ショートショートにかかわらず印象が濃かったのは、妖の黒い瞳が鮮やかに見えるような気がしたり、登場する二つの絵がどちらも目にしたように想像できてしまうからかもしれない。
結末に、はっと我に返る青年の爽やかさが、まるで作者を見るようで微笑ましかったのは、作者を知る者だけの感慨かもしれないけれど……。
そして巻末は、戦時の広島と現代が交錯する妖しのファンタジー「あの桜」(くぼひでき)の美しくも残酷な一篇が締めくくる。