『忍剣花百姫伝』#ポプラ文庫ピュアフル 著/越水利江子


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以下は、懐かしい書評エッセイです。

【父と観た時代劇】作家/鳥野 美知子さん

『忍剣花百姫伝』
            越水 利江子・作
                ポプラ社

 この作品を読みながら、豪華絢爛、奇想天
外、天衣無縫、総天然色等々、さまざまの四
字熟語が頭に浮かんだ。子どもの頃、わたし
は父に連れられて何度も映画館に行った。ど
うも、父にとっての一番楽な子守りの形だっ
たらしい。当時は時代劇最盛期。美形のお殿
様やお姫様の花形スターが目白押し。絢爛豪
華な着物や簪。香り立つ美しさが画面いっぱ
いに広がっていた。ため息と、甘納豆、のし
イカと、サイダーにわらのストローが、子ど
もの頃のわたしの映画スタイルだった。『忍
剣花百姫伝』を読みながら、わたしにとって
の初めてのファンタジーは、父と観た時代劇
映画だったのではないかと思い至った。この
作品は、映画を観ていた時のワクワクドキド
キする感動を蘇らせてくれた。時は戦国乱世。
「五鬼」とよばれる五つの忍者の城があった。
そのひとつ白鳥城が、正体不明の軍勢により、
一夜にしてほろぼされる。知らせを受けた八
剣城主は『八忍剣』をよび、探索を命じる。
八忍剣とは、霊剣、天竜剣をはじめとする九
つの神宝を守る無敵の忍剣士たち。だが八忍
剣の留守をねらい、謎の軍勢は八剣城におそ
いかかる。
 冒頭から読者は、白鳥城落城の怪事にたじ
ろぐ。八剣城が落城して、行方知らずになっ
た花百姫を探す。探しながら、摩訶不思議な
世界に誘い込まれる。壮大で、奇想天外、惜
しげもないまでの蘊蓄の数々。本には、収ま
りきれないほどの情報と、キャラクター。そ
して事件。
 おそらくは、軽装版だからこそ描ききれる
世界なのかもしれない。ゆったりと豊穣に作
品世界を紡いで欲しい。
飛ぶ教室二〇〇五年夏号・少女小説の特集』
で加藤純子さんが吉屋信子を論じている。
 文中、カルヴィーノの著書『カルヴィーノ
の文学講義』を引用していた。孫引きすると、
『次の千年のために文学が必要としている要
素として「軽さ・速さ・正確さ・視覚性・多
様性」の五つ』を挙げていた。
 まさに、これは軽装版に求められる要素と
思った。そして、これこそが『忍剣花百姫伝』
の要素だと思った。
 時は、吉屋信子の時代を経て越水利江子
至る。活字から飛び出すほどに元気で魅力的
なキャラクターたちが縦横に活躍する。
 越水さん自身のホームページ『風雲童話城』
には、『忍剣花姫百伝』キャラクターの人気
投票コーナーがある。映画化するなら、どん
なキャストにしたいかが、作品ファンによっ
て自由に推薦されている。
 少女たちは、キャラクターを愛し、作品世
界に酔いながら、作者によって周到に練り上
げられた世界に、さらに深く踏み込んで行く。
『鬼』とよばれ、時の権力にまつろわぬ忍び
の者たちの姿を知り、鬼でありながらも持ち
合わせた人間としてのもろさを知っていく。
 八忍剣ひとりひとりが、呪術や忍術や超能
力や秘められた神宝で武装していながら、じ
わりじわりと内面を露呈するのを目の当たり
にする。そうやって、少女は読書の世界に魅
了され、大人になっていくのだろう。
 今は亡き父と観た時代劇は、冒頭から完に
至るまで、幽玄でこの上もなく美しかった。
『忍剣花百姫伝』が少女や少年たちの心に、
大きく羽ばたきますように。少女たちと一緒
に続巻を心待ちしている。