『手をつないだままさくらんぼの館で』#KADOKAWA 著/令丈ヒロ子


楽しい展開にワクワクしながら読んでいたのに、気が付けば、思いもしない世界に堕ちていた…という衝撃。ただの読者なのに、主人公が感じるすべてに、私もすがるように読み進めていました。それは、描き出された世界が楽しかったからこその、喪失の哀しみでした。『帰ってきて!りりなっ!』と、私も心の中で呼び続けていたような気がします。そうする中現れてくる、さらに苦しい喪失……認めたくなくて、白桜館に還りたくて……けれど、人生においての喪失とはそういうものなのです。その哀しみを、痛みを受け入れつつ、顔を上げて生きていく主人公の思いが胸に迫りました。けれど、けれど、人生において、ファンタジーがどれほどの力を与えてくれるのかを、教えてくれた物語でもありました。人はいつでも脳内でファンタジーを描きながら生きているのです。実際、人が眠っている間見る夢とはそういうものです。辛い苦しい現実の中だけでは、人は息が詰まって、うつ病になったり、自殺を考えたりしてしまうものなのです。それを食い止めているのが、脳が作り出しているファンタジー、つまり夢なのです。夢見て、バランスをとるからこそ、人は生きていられるのだと、以前読んだ学術書を思い出したりしました。そう、この物語は、人生の喪失をやさしく癒してくれる物語なのです。ありがとう〜令丈ねえさん

大学生で作家のぼくは、入院した遠縁のおばあさんの家…白い桜の木がある、アニメに出てきそうな洋館・「白桜館」の管理を任された。そこに突然、“りりな”と称する謎の多い10歳の女の子が現れた。わがままなりりなの世話と執筆に追われつつ、ぼくは今まで味わったことのない満たされた日々を感じていた。しかしそんな二人の日々は唐突に終わりを告げた―。二人が向かった先とは?りりなの本当の姿は?愛することを見失ってしまったすべての年齢の人たちに届けたい、愛と希望と感動の物語。 (BOOKデータより)