はじまりは忍剣花百姫伝

このところ、時代活劇の仕事が次から次へと入っています。いつから、この流れが始まったのか、ふと思い返してみました。
私は子どもの頃から時代活劇好きでした。子どもから三十代くらいまで、読んだ時代小説の数は半端じゃないと思います。もっとも、自分が書き手になってからは、読むより書く時間に日々を消耗するようになってしまい、しばらく、時代小説からもはなれていました。(私は児童文学のリアリズムやファンタジーで作家としてスタートしたものですから)
そのなか、大好きな時代活劇を書く機会を初めて与えて下さったのが、P社のO編集長でした。それが『忍剣花百姫伝』シリーズです。
山賊に育てられた忍び城の姫君、花百姫のもとへ集まる八人の忍剣士たちの活躍を描く物語です。花百姫と八忍剣はそれぞれ九つの神宝と秘術をあやつり、時空を超え活躍します。これが、既刊5巻まで出ています。残りは6,7巻(6,7巻は大増ページスペシャル版で通常の1,5倍の厚さで出版されます)で完結します。
このシリーズは今でこそ順調といっていいと思いますが、スタート時は厳しかったのです。各社の人気文庫のはざまに埋没してしまったせいでした。でも、O編集長はこのシリーズを守り抜いて下さいました。「花百姫は最高のエンターティンメントです。わたしたちの仕事は良い本を出版することです。」とおっしゃって。
賞は受けても売れずの作家だった私には涙が出そうなお言葉でした。花百姫は少しずつですが、熱烈なファンを増やしていきました。
そして、第二のきっかけとなったのが、『月下花伝』『花天新選組』という幕末ファンタジーのお仕事でした。これもまた、私が売れない時代にお世話になったD社のM編集長からのご依頼でした。この新選組シリーズは最初から好調な出足となったのです。
そのあたりからだったでしょうか。版元各社から、時代活劇のお仕事がどんどん入り始めたのです。今年の秋から来年にかけては、自分でもどうなるんだろう?と思うくらい時代活劇や時代ファンタジーのお仕事を抱えています。それに加えて、むろん、絵本や童話の仕事もせねばなりません。嬉しい悲鳴とは、このことだと思います。
この流れが、いったいどこからやって来たのかと考えていて、やはり、最初は『忍剣花百姫伝』であったのだなと、思い当たりました。
社会全体が、いつしか失ってしまった日本人としての誇りや、清逸な生き方やこころの豊かさを求めて、時代小説、時代活劇が再評価されているこの時代の流れもあるのでしょうけれど。それでも、人生においてやって来る幸運の大波は、いきなり、時代に乗ってやってくるわけではないのです。人は、水面下で、気づかぬうちに、波を引き寄せる何らかの働きをしているものなのです。私の場合は、O編集長という大きな力に支えられてのことなのですが。
少女の頃、あんなに夢中になった時代活劇を書けることの幸せを私に引き寄せて下さったのは、O編集長、それにM編集長でした。心から感謝しています。
そして、また読んで下さったみなさまの大きな力、さらに、新たな書く場を与えて下さろうという各社のみなさまのおかげで、私は作家としての新たな道を拓こうとしています。
人間とは、どれほどの他者に助けられて生きていることでしょうか。この大きな感謝は、己への責務と受け取って、面白さの中に、生きる力がふつふつと湧いてくる物語を目指します。どうぞ、見守って下さいまし。
威儀を正して、今日も執筆に戻ります〜
忍剣花百姫伝5 紅の宿命 (Dream スマッシュ!) (Dreamスマッシュ!)