紅燃ゆる谷、菅谷永代たたら・『忍剣花百姫伝』の舞台3


【鉄の歴史村資料より/右上・玉鋼/右下・田部家土蔵群/左下・歴史博物館内、高殿内部模型など】



雲南市吉田町菅谷の高殿に取材に行ったのは、たしか『忍剣花百姫伝』(ドリームスマッシュ版)の3巻が出版された頃ではなかったっでしょうか。
出雲取材で足をのばしてと思っていたのですが、それが最終日だったので、はるばる遠かったです。
おかげで、京都へは、まっ暗な国道を走って帰るはめになりましたが、それでも、どうしても行っておきたかった場所でした。

この高殿地区には、昔、170人もの技術者集団が住んでいて、たたら製鉄をおこなっていました。
日本一の山林王、田部家が経営していたのは、たたら製鉄には膨大な燃料(木材)がいるからです。
ほら、思い出して下さい。アニメ「もののけ姫」で、たたら製鉄シーンが出てきましたね。
山ごと森を消費してしまうのがたたら製鉄です。
ここは、あのシーンのモデルにもなった地域だそうです。
日本刀の材料となる玉鋼(たまはがね/ねばりがあり純度の高い鉄)を作ったのも、このたたら製鉄だったのです。
この菅谷たたら山内案内所で、朝日光男さんにお目にかかり、いろんなことを教えて頂きました。
その時、頂いた写真です。

【菅谷高殿とカツラの木】写真/朝日光男さん
紅燃ゆるカツラの木は秋ではなく、春、桜開花の頃です。
カツラの新芽はこの時期、たった3日ほどだけ、真紅に芽吹くのです。
機械化をしないたたら製鉄は、今も昔も3日3晩かかるといいますから、この真紅の新芽のサイクルと同じです。
さらに、燃えるように天へ芽吹く様子は、たたらの炉で燃え上がる炎を連想させます…と、朝日さんは語られました。

【やがて、青葉になります】写真/朝日光男さん
このカツラの木というのは、たたらには必ず植えられていました。
というのは、たたらの神さま(金屋子神)は、この木に降臨されるのです。
鉄の神、火の神、つまり、踏鞴師(たたらし)、鍛冶師、鋳物師などの職業神さまです。

忍剣花百姫伝5 紅の宿命 (Dream スマッシュ!) (Dreamスマッシュ!)←ドリームスマッシュ版
忍剣花百姫伝(五)紅の宿命 (ポプラ文庫ピュアフル)←2012年現在の文庫版
一年にたった三日間だけ、真紅に燃える木。神さまが降臨される神聖な木。
花百姫でも、この真紅の木が登場します。
高殿たたらも登場しますが、今は普通の屋根にみえる高殿は、たたらが創業されていた時は開閉式だったそうです。
つまり、たたらの炎の熱の逃げ口があったのです。
だとしても、たたら師たちは、さぞかし熱かっただろうと思いましたが、昔の日本人は、現代の日本人より圧倒的に汗腺が発達していたそうで(現代人は冷暖房のせいで汗腺が退化して半分になっているとか)、体温調節能力も素晴らしかったようです。

【秋、黄葉が始まっています】写真/朝日光男さん
このたたら師たちのリーダーが村下(むらげ)といいます。
たたらの炉にあけた小さな穴から、常に炎の様子を確認するので、一生この仕事を続けた村下は利き目を失い、隻眼の者も少なくなかったといいます。



隻眼の霧矢がそれを利用して、村下に化けて潜入するのはそういう訳でした。

【冬、すっかり葉が落ちました】写真/朝日光男さん



















【朝日さんが実際に製鉄された玉鋼】
これも、頂きました。
ずっしり重く、そこにすでに、3日3晩、不眠不休で製鉄を続けたたたら師たちの魂が宿っているように感じます。
日本刀は刀になる前からすでに魂が宿っていたのかもしれません。