連載写真絵本「つぶやき物語3 森の絵描きさん」

「秋だねえ」
松ぼっくりがいいました。

「秋ですねえ」
真っ赤に染まったもみじもいいました。
「君のきれいなその色は、いったい誰が染めるの? ぼくは緑からこんな色になるだけなのに」
松ぼっくりはうらやましそうにいいました。
「それはね、私たちを一枚一枚染めてくれる森の絵描きさんがいるの」
もみじがいった時、森の下草から、かわいい声が聞こえました。

「ぼく、ハカマが脱げちゃった。手も足もないから、もうはけないよ、お気に入りだったのに」
「やあ、どんぐりくん。いいじゃないか、ハカマぐらい。ほら、見上げてごらん。その葉っぱも、あの枝も……森という森が錦の晴れ着をまとったみたいだよ」
松ぼっくりがいいました。

見上げると、森中が錦色でした。
「わあ、きれいだなあ」




でも、夜がやってくると、森の色は失われて真っ暗です。


「こわいよ、こわいよ。手足がないから逃げられない。真っ黒な熊がやってきたら、ぼく、たべられちゃうよ」
松ぼっくりも、もみじも見えなくなった森で、どんぐりは泣き出しました。


「ぼうや、こわくないよ。夜にだって、絵描きさんはいるんだよ、ほら、こっちを見て」




声がした真っ暗な空を見上げると、赤くなったお月さまが、お酒に酔ったみたいに、ふんわり、まぁるく浮かんでいました。




【写真】田中風馬 【物語】越水利江子


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