『恋する新選組』外伝 新選組屯所事件簿5 かっこいいのは俺だ!」
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◆新選組屯所事件簿5
文机に向かって、またも書き物をしている土方歳三
土方歳三 「青い青い空の向こう 見つめる先のかなたに 光求めてゆくのは誠の道……と」
沖田総司 「土方さん、また発句ですか。どれどれ……」
のぞきこむ総司。
歳 「ふふ、これは発句ではない。作詞だ。ポピュラーソングを作ってもらおうと思ってな」
総司 「作詞? それが?」
歳 「そ、そうだ」
総司 「へえ。誰に曲をつけてもらうんです? まさか、遊郭の嶋原太夫に歌ってもらうんじゃないでしょうね?」
歳 「うん、それはまあ……」
総司 「土方さんと太夫じゃ、色っぽい曲になるんでしょうね」
歳 「いや、かっこいい曲にしてもらう予定だ。それで、出かけてくる!」
総司 「じゃ、わたしもひまだから、お供します」いいつつ、にやにやしている総司。
そこへ、市中見廻りから、永倉新八と原田左之助が帰還。
新八 「なんだい。沖田君。いやに、にやにやしてるじゃないか」
総司 「これから、島原へ行くんです。かっこいい新選組の曲を歌ってもらうために」
左之助 「かっこいいだって!? かっこいいといえば、俺だろう!」
なんの自信か、胸をはる左之助。
左之 「新八っつぁん、俺たちも行こうぜっ」
新八 「いや、しかし……おれは、都都逸(どどいつ)ぐれえしか知らねえし」
総司 「いいじゃないですか、都都逸も色っぽい」
左之 「いいねえっ、色っぽいのが最高だ!」
歳 「だからっ、色っぽい歌じゃねえっ。かっこいいのだ!」
土方の声を聞きつけ、近藤勇が顔を出す。
近藤勇 「かっこいいだって!? それは、俺のことか?」
歳 「こ、近藤さん、あんたもか……!」
げんなりする土方。
総司 「ふふふ、新選組はみんな、かっこいいのが好きなんですよ。いっそ、藤堂君も、山南さんも呼びますか?」
歳 「勝手にしろっ」
土方は、ぷいっと立ち上がった。
左之助 「おい、副長! 待ってくれっ」
新八 「副長、俺も行くぞ!」
総司は、藤堂、山南をさそって出てくる。
原田、永倉が土方の後を追い、近藤、沖田、藤堂、山南も、連れ立ってついていく。
藤堂 「どういうことですか?」
山南 「何の騒ぎです?」
勇 「まあ、みんなで愉快にやろうってことだろう」
新八 「で、どの太夫を呼ぶんだ?」
左之 「そりゃあ 副長におまかせだ。なにせ、ここじゃ、一番モテる」
藤堂 「いや、色街で、一番顔が広いのは局長ですよ。なにせ、花の姉妹をそろって愛人にした人だし……」
新八 「藤堂、うらやましそうだな」
藤堂 「そ、そんなことありませんよ! わたしは嶋原の女に興味はありません!」
新八 「へえ、そうかい。なら、素人の娘がいいってのかい?」
藤堂 「ちがいますって!」
山南 「永倉君、藤堂君は大名家の御落胤だ。女や金やそういう下世話なものに興味はないんだ。この人が惚れたのは、近藤さんだ」
左之 「ってことは……!」
ハッとする原田左之助。
藤堂 「何、ハッとしてるんですか!原田さん!」
左之 「いや、なに、その……」
藤堂 「何言いよどんでるんですよぉっ。妙な考えしないで下さいよっ」
とまあ、わいわい嶋原の揚屋に上がった新選組御一行。
呼ばれて来たのは、島原一の太夫、待幸(まゆき)太夫。迎えた土方が太夫に、したためた歌を手渡す。
歳 「これを歌ってほしいんだ」
太夫 「あれ、これには、三味の芸妓と男衆のお囃子が入用でありんす。呼んでもようござんすか?」
歳 「かまわん、何でも呼べ」
というわけで、一堂揃いました。
待幸太夫の歌声をどうぞ!
左之 「なんだよ、沖田ばっかり、いい役廻りじゃねえか!」
総司 「そんなことありませんよ。この歌には、隠れ主役がいるそうですから」
左之 「誰だよ、それ」
新八 「左之さん、おめえじゃねえことは確かだ」
藤堂 「なら、土方さんでしょう。いい男だし」
左之 「ハッ……そうかっ、やっぱり……藤堂は……!」
藤堂 「だからっ、何のハッなんですかぁっ」
山南 「いや、新選組の主役といえば、近藤さんでしょう、やっぱり」
勇 「いやいや、山南君……」と、まんざらでもない近藤勇。
そこで、ニヤリとした土方歳三。
歳 「新選組の主役はな、俺たちじゃねえ。新選組ファンの可愛い歴女たちだ。俺ぁ、その可愛い女の気持ちを歌にしたのさ」
(つづく)